Kanon   ぱにっく・ぱにっく 〜水谷姉妹襲来!?〜

 

 


ざわざわざわ・・・

「おまえら静かにしろ!!

 

生徒達の朝の雑談はこのクラスの担任石橋の一声で終わりを継げた。

「今日は二人転校生を紹介する。ちなみに女だ。男子は期待してていいぞ」

その言葉の後、男子達がざわめきたつ。

「今日は珍しいことづくしね。相沢君たちは早く来るし転校生まで来るなんて」

「確かに珍しいな」

「うるせぇ。名雪がいつもこのくらい早く起きてくれたら俺だって普通に歩いてこられるのに・・・」

「祐一、なんか酷いこと言ってない?」

「気のせいだ(きっぱり)」

 

と、窓際の席で比較的静かに雑談を繰り広げているのはおなじみの美坂チームである。

いつもならSHRが始まると同時に駆け込んできては担任の石橋と数分にも及ぶ駆け引きを行っている名雪と祐一が今ここに座っているのは、確かにかなり珍しいことであった。

なぜこんなに早いかというと、単に祐一が名雪を起こすのにあの謎ジャムを引き合いに出しただけなのだが・・・。

そのおかげで祐一は放課後に名雪にイチゴサンデーを奢らせられることが決定事項となっていた。

 

「しかし、今日は何か起こりそうな予感が・・・」

「お前もか、相沢? じつは俺もさっきからそんな予感が・・・」

 

「では二人とも入って来い」

その声とともに転校生であると思われる二人が入ってきた。

 

 

 

「今度この学校にやってきました水谷亜矢です。短い間ですがよろしくお願いします」

「同じくこの学校に転校してきた水谷理沙です。ちなみに亜矢お姉ちゃんとは双子の姉妹です」

姉妹とは言うものの、その容姿はまったく正反対であった。

姉の方は背も高めで、髪を腰の方まで伸ばしており、おっとりとした雰囲気を醸し出している。

一方妹の方は背が低く、髪も短くショートカットにしており、姉とは違い元気いっぱい、といった雰囲気を出している。

「それじゃあ二人はちょうど相沢と北川の席の隣が空いてるからそこに座ってくれ」

3年に進学してから行った席替えで祐一が窓側の一番後ろに、北川は窓側より3列目の一番後ろになっていた。しかも両者の隣はなぜか空席になっていた。

「や、やばいぞ北川よ・・・」

「なんでだ、お前はうれしくないのか?」

「確かにうれしいが、お前こそこの後起りうる事態を予想できないわけではあるまい?」

「あ・・・・・・」

などという意味ありげな会話を繰り広げていた。

 

「おはようございます、祐」

「潤君もおはよう〜!

 

ゆっくりと祐一と北川が顔を声のした方へと向けると、そこには先ほどの姉妹が立っていた。

「あ、ああおはよう亜矢・・・」

「おはよう理沙・・・」

「あら、あなた達知り合いなの?」

 

目の前の席にいた香里が不思議そうに聞いてくる。今日転校してきたばかりの転校生とクラスメイトが知り合いなんて、

そうそうないだろうから至極当然の反応と言えるだろう。

「ああ、一応・・・」

 

「知り合いも何も、亜矢姉と祐一、私と潤君は恋人だよ?」

周りの時が止まったかのような静けさが辺りを包む。その中心で北川と祐一だけは(やってしまった)というような顔をしている。

一方水谷姉妹は、きょとんとした顔でその風景を眺めていた。

「相沢くん、北川くん、せ・つ・め・いしてもらおうかしら?」

「説明の内容次第ではゆるさないんだお〜」

恐る恐る顔を向けると鬼のような形相をしながら不敵な笑みを浮かべている香里と、糸のように目を細めている名雪がいた。

「って名雪、お前寝てるだろ」

「うるさいんだお〜! さっさと説明するんだお〜」

(こ、怖え〜・・・)

いつの間にかSHRは終わり、石橋も職員室に帰っていっていたため、クラス全員の視線が二人に注目していた。

亜矢と理沙を連れて走って逃げようと教室の入り口を見ても、そこまでに多数のクラスメイトがおり、逃げ出す前に捕まるのは目に見えていた。

「ほ、放課後にでも百花屋に全員集めて話すってのじゃ・・・」

「駄目よ。クラスの皆も知りたがってるし。さあ、さっさと白状・・・」

キーンコーンカーンコーン・・・

「授業を始めるぞ、全員席に着け」

チャイムが鳴ると同時に1時間目の担当の先生が入ってくる。それを確認すると生徒達は自分の席へと帰っていった。

「まあいいわ。その代わり放課後にきっちり説明してうわよ」

『イ、   イエッサー!!

もう祐一と北川に逃げ道はなさそうだった。

 

「祐、起きてますか?」

4時間目の授業中亜矢が祐一に小声で話しかけてきた。祐一は窓から差し込んでくるちょうどいいくらいの日差しを受け、知らない間に眠りかけていたところだった。

先ほどまで感じていたクラスメイト達の鋭い目線はもう感じなくなっており、やっと一安心できたところだったのだ。

「ん・・・。ああ、起きてるぞ」

目をこすりながら答えた。

「不思議に思ってたのですけど、私達がこちらに来ることを何で知らなかったのですが? 確か祐の両親が手紙を出したはずだって父が言ってたのですけど・・・」

「え、手紙? もしかしてこれのことか?」

そう言って取り出された手紙にはまだ封を切っていなかった。その封筒のあて先にはしっかりと『相沢祐一』と書かれていた。

「これは今日の朝渡されたものなんだが、学校へ行ってから読もうと思ってその場では読まずに学校へ来たんだ」

そう言い終ると手紙を再びしまい始める。

「今見ないのですか?」

「ああ、どうせ今日は職員会議の為に午前中で学校が終わるからな。帰ってからでも見るさ」

そう言って祐一は再び寝はじめる。

 

 

しばらくするとチャイムが鳴り始めその日の授業が終了した。

亜矢と理沙が帰る用意をして教室を出ようとしたときには、香里が『いくわよ』といいながら祐一と北川を引きずりながら教室を出たところだった。

名雪もその後ろについて行っているがその目を見る限りまだ半分寝ているようだった。

「亜矢姉、私達もいくよ!

そう言って理沙が走っていく。亜矢も急いで後を追うことにした。

 

 

「で、俺達は今百花屋にいるわけなのだが・・・」

「相沢くん、誰に向かって話してるの?」

と香里がつっこんだ後、あたりを見回すともう全員そろっているようだった。

「まずは自己紹介からですね。」

最初に言い出したのは亜矢だった。

「私の名前は水谷亜矢です。亜矢と呼んでください」

ぺこり、とかるくお辞儀をしながら言う。

「次は私だね。私の名前は水谷理沙。亜矢姉とは双子の姉妹です。理沙って呼んでください」

「次は私達の番だね。私は水瀬名雪です。祐一のいとこです」

「私の名前は美坂香里よ。そこにいる栞とは姉妹なの」

栞を指しながら言う。

「よろしくお願いします〜」

「佐祐理は倉田佐祐理といいます。よろしくお願いしますね」

「川澄舞。よろしく」

「私は天野美汐と申します。それと、隣にいるのは沢渡真琴と言います」

「あぅ〜、よろしく・・・」

「ぼくは月宮あゆ。よろしくね」

自己紹介をしている風景をみて、祐一と北川は亜矢と理沙はすぐ馴染めそうだと安心した。

 

 

「祐一さん、北川さんと理沙さん、亜矢さんはどういう関係なのですか?」

「亜矢姉と祐兄、私と潤君は恋人です」

そう言って理沙は北川と腕を無理やり組む。亜矢もそれを見て祐一に腕を絡ませた。

『え〜!!!

見事に全員の叫び声が店内に響く。

「店の人の迷惑になるから皆もっと静かにしろ!

祐一が小声で言うと皆しまった、という顔をして静かになった。

「じ、じゃあ亜矢さんと理沙さんは相沢君たちはいつどこで出会ったの?」

一番速く立ち直った香里が聞いてきた。その質問に皆がうなずいた。

「あれは今年の2月の半ばごろだったと思います。私と理沙は隣町に住んでいたのです。その日は二人とも欲しいものがありまして、二人で買い物に出たんです。

その時にナンパに会いまして、路地裏に連れ込まれて5人の男の人に囲まれてしまいまして・・・」

「そこに祐兄と潤君が来て助けてくれたんだよ」

亜矢に代わって理沙が説明を続ける。どうやら亜矢よりは理沙の方がこういう説明に向いているらしかった。

「二人ともすごく強くてすぐに決着は着いたんだけど、潤君が倒れたフリをしていた相手の不意打を食らいかけた私を庇って怪我しちゃって、それで私達の家に招いたのがことの始まりです」

名雪と香里はその怪我のことを知っていたのですぐ納得できたようだった。もっとも、二人が北川に何故怪我をしたのか、と聞いても答えてくれなかったのだが・・・。

「祐一さんと北川さんは何故隣町まで行っていたのですか?」

その質問をしたのは佐祐理だった。その周りでは皆が『そう言われてみれば』といった表情で二人を見つめる。

「え〜っとそれはだな・・・。か、買い物に行ったんだよ! なあ北川」

「た、確か欲しい物が隣町にしかなくて買いに行ったんだったよな」

祐一は北川がとっさに話を合わせてくれたことに心から感謝していた。

(二人でナンパしに行ってたなんて言えない・・・)と心の中でつぶやいていたつもりだったのだが・・・。

「ば、馬鹿!!

「ふっふっふ、そういうことだったのね・・・」

「後でお仕置きが必要なんだお〜」

「もしかして例の癖出てた?」

そこにいる全員がそろってうなずく。祐一と北川の額からは冷や汗が流れ出ていた。

「話続けていいかな?」

「どうぞ続けてください」

一触即発の雰囲気の中、その雰囲気に理沙が耐え切れなくなって話を続ける

「そのとき祐兄と亜矢姉が二人とも一目惚れだってことに私と潤君が気が付いて、なんとか二人をくっつけようと何度も潤君と祐兄を呼んでデートしたりしてがんばってたんだけど・・・」

「自分と北川くんも付き合うことになった、と?」

北川と理沙が真っ赤になってうなずく。話が途切れそうだったので続きを亜矢が話すことになった。

「私達が付き合うことになった後の1ヶ月くらいは休みの度にデートをしていたのですが、それだといつでも会えるわけじゃなく、あの、その、寂しかったので・・・」

「父に言ってこちらに転校させてもらったの」

真っ赤になった亜矢に代わって復活した理沙がそう言った。

それを聞いた後、全員唖然として言葉を発しなくなっていた。

祐一達は何度も呼びかけてみたのだがまったく応答がなく、仕方なくほおっておくことにした。

「いいんですか、放っておいて?」

「いいのいいの。それより早く行こうぜ?」

「理沙も行くぞ」

祐一は自分と亜矢の代金と、ちゃっかりイチゴサンデーを食べていた名雪の分の代金のみ払って店を出た。

それに続くようにして理沙の代金と自分の代金を払った北川と理沙が店から出てくる。

「それより、亜矢と理沙はどこに住んでるんだ?」

「それなら、新しい家が出来たからそこに住むことになったんです」

「もちろん祐兄と潤君も一緒だよ?」

理沙は爆弾を投下した(

『な、な、な、なにーーー!!!

「ちなみに潤君と祐君の両親と、祐君がお世話になってた秋子さんには許可をもらってるよ〜♪」

その後に手紙にその事が書かれてるはずだ、と理沙がうれしそうに話す。

今のやりとりで分かる方も多いと思うが、祐一の両親と北川の両親、亜矢と理沙の両親は全員知り合いだったのである。

なんでも、全員高校時代のクラスメイトらしかったが、祐一達がそのことを知ったのは自分達が付き合い始めてからであった。

話を戻そう。

理沙の話を聞いて祐一はすぐにポケットに入れていた手紙を取り出した。そして封を切ってその手紙を読み始めるとそこには・・・。

『ハロ〜、祐一。元気にしてた?

この手紙が届く頃にはとなりに亜矢ちゃんと理沙ちゃんが隣にいると思うけど、仲良くやってる? 泣かせたりしたら許さないわよ?

っと、話を戻すけど、そちらに新居が出来てるはずだから北川君とそちらに移りなさい。

もちろん秋子には許可をもらってるから学校から帰るころには二人の荷物もそちらに運び終わってるはずよ。あと、高校を卒業しても元の町に戻らなくていいわよ。

亜矢ちゃん達がいれば家事なんかは安全だし。母さんたちもそろそろ元の町に戻れるからたまには顔を出しなさいよ? じゃあ今回はこれくらいで・・・。

一絵より』

と手紙に書かれていた。

「はぁ〜、母さんらしいというかなんと言うか・・・」

祐一は脱力したようにそうつぶやく。自分の親の性格は十分理解していたが、こんな重大なことを手紙で済ませるところはさすがだと思った。

「祐・・・?」

亜矢が祐一の顔を覗き込む。どうやら心配をかけたようだった。

「そろそろ行くか。家まで案内しくれ」

「は、はい!

そう言って二人は腕を絡ませる。祐一は恥ずかしくてそっぽを向いてしまったが、こういうのもたまにはいい、と思っていた。

 

「あの二人はあきれるくらい仲がいいよな」

そうだね、とうらやましそうに眺める理沙を見て北川は思い切って自分達も腕を絡ませることにした。

「な、な、な・・・」

「さあ、俺達も行くぞ」

「うん・・・」

二人も顔を真っ赤にしながら家に向かった。

 

 

 

「ここが新居・・・・・・」

「かなりでかくないか?」

しばらくその大きさにその場で呆然としていたが、ずっとこのままでいるわけにもいかず中に入ろうとした。

「ちょっとまって!

そう言って亜矢と理沙が先に仲に入って行ったと思うとすぐに中から呼ぶ声がした。祐一と北川は訳が分からなかったのでとりあえず玄関のドアを開けると・・・。

『おかえりなさい♪』

『ああ、ただいま!

その言葉を聞くと同時に二人は自分の彼女を抱きしめながらそう言った。

 

 

 

 

END

 

 

 

あとがき

1周年記念SS、ぱにっく・ぱにっく、どうだったでしょうか?

この話は突然ふと頭の中に思い浮かんだ話を書いてみたのですが、恋愛物は難しいと再認識されられる作品になりました。

一応1話読みきり方式にするつもりです。なので次のアップは気の向いた時はリクエストのあった時、ということになります。

まだ自分でもオリキャラ二人の性格などがつかみきれてない部分もあるので精進したいと思っています。

ではまた次作にて〜