第二話  再び動き出した「時」

 

2196年  日本、サセボ

軍基地が近くにあることで常に軍人と一般人とでにぎわっているサセボ。

そのとある場所にその人は来ていた。

「ミスター、本当にこんなところに目的の人物がいるのですか?」

港の近くのとある飲食店の前で大柄の男がミスターと呼ばれる男に聞いた。

昼のかき入れ時は既に過ぎており、人々も仕事に戻りつつあったが、二人の男はそうではないようだ。

「入ってみればわかりますよ、ゴートさん」

そういってプロスは何食わぬ顔で入って行く。

首をかしげながらも、後を追わないわけにはいかないので、ゴートと呼ばれた男もしかたなく後に続くことにした。

 

「いらっしゃい!

そこに入ると店長とおもわれる人が出迎えてくれた。

お昼を少し過ぎていたので客はほとんど残っていない。

「何にしましょう?」

水の入ったコップを二つ2人の前に置くと、伝票を手にそう言った。

「私たちはここにテンカワ・アキトという人物がいると聞いてやってきたのですが。」

そのセリフを聞くと、店長は顔つきを変えていった。

「あんたら軍の関係者か何かかい? 悪いが帰ってくれ、あいつはもう軍は辞めたんでね。」

そう言って厨房の奥に戻ろうとした。

「私たちは軍の関係者じゃありませんよ。私たちはこういう者です。」

そう言って渡せれた名刺には、ネルガルスカウト係担当プロスペクター、と書かれていた。

その名刺を見た後、店長は奥から一人の青年を呼び出した。

 

「プロスさんじゃないですか?」

「いやはや、覚えていてくれているとは思いませんでしたよ。」

店の片隅に3人は陣取っていた。

どうやらプロスとアキトと呼ばれた青年は知り合いらしい。

しかし、あまり面識があるわけではないらしく、プロスは少し驚いたという表情でそう言った。

「で、今日はどういう用件ですか?」

青年は真剣な表情になり言った。

それもそのはず、このプロスがアキトにただ会いに来たわけではないことくらい、彼には分かりきっていた。

プロスも、さすがにばれていないなどとは思ってもいないらしく、こちらも真剣な顔で向かい合う。

「今日はあなたをスカウトに来ました。」

「スカウトですか?」

不思議そうな顔をして聞き返した。

「実はもうすぐ我々が作っていた戦艦が出港するのですが、パイロットが不足しておりまして。」

普通はここまで率直に言うものじゃないのかもしれない。しかし、プロスはこの、テンカワ・アキトという人物を少なからず知っており、

遠まわしに言うことが逆効果であることは重々承知していた。

「一般企業が戦艦ですか?軍はそう簡単に承諾するとは思えませんが。」

地球といえど、敵がわんさかと攻めてきているこのご時世に、一般企業が戦艦を造り、それを軍が見過ごすなどとは考えにくいことである。

「軍とはもう話をつけていてますので、なんら問題はありません」

確かに不可能ではないかもしれない。しかし、それには大変な労力や時間等が必要であり、とうていそのメリットが得られるとは思えない。

「でも、そこまでして一般企業が戦艦を保有する理由は何ですか?」

アキトの疑問ももっともなことだった。

不思議に思ったアキトはプロスに聞き返す。

「我々の目的は火星に行くことです。」

「ミスター!!

プロスの言動に、ゴートは思わず怒鳴ってしまう。

それもそうだ、目的地が火星だ、ということは本当に一部の人間しか知らないことなのだから。

そんな企業秘密をあっさりしゃべられてしまっては、誰でも叫んでしまうというものだ。

「いいんですよ。彼は我々の計画に絶対必要な人物ですから。」

続けてプロスが言った。

「テンカワさんは火星出身で、第一次火星大戦時もたしかそこにいましたよね? 火星に戻りたくはないですか?」

プロスの眼鏡が怪しく光る。そして、あたりに沈黙が広がった。

アキトは正直言ってもう一度火星へ戻れるチャンスがくるとは思ってはいなかった。

火星にはまだたくさんの人々が残されている。その人々を助けに行きたかった。

それになりより、自分の生まれ故郷が敵に占領されているなんて、許せるはずが無かった。しかし・・・

「すいませんが俺は行けません。」

「な、何故ですか!?」

プロスはあわててそう言った。

まさか断られるとは思っていなかったのだろう。正義感の強い彼ならば必ず行きたがると思ったのだ。

「火星にはもちろん行きたいです。しかし、俺は地球で探さないといけない大切な人がいるんです。

そいつが見つかるまでは地球を離れるわけにはいかないんです。」

説得が無駄であることは、その真剣な表情が物語っている。しかし、彼としてもこのまま戻るわけにはいかない。

「出港までは間がないですが、よろしければネルガルでお探しいたしましょうか?」

「本当ですか!?」

アキトは目を輝かせながらそう言った。

プロスが駄目もとで言ったその言葉は、意外にもかなりアキトが食いついてきた。

このチャンスを逃すわけにはいかない。

「はい、もちろんですよ。よろしければその方のお名前を教えていただけるますか?」

 

 

プロスのスカウトから一週間後、アキトはとある港へ来ていた。なぜ彼がここにいるかというと、

あの時、プロスに探し人の名前を言ったのだ。すると、

「その人なら我々の戦艦に乗ればきっと会えますよ」

と言われ、その戦艦の場所と出港日時を聞いてやってきたのである。

パイロットはあらかじめ出港の一日前には乗船してほしいと言われ、

店の店主サイゾウに事情を説明し、店を辞めていた。

サイゾウは意外にも暖かく見送ってくれたことは、彼にはうれしいことだった。

それまでのバイト代を貰っているとはいえ、無駄遣いするわけにはいかないので、自転車をこぎながら指定された場所に急いでいた。

元軍人だけあって彼の体は鍛えられており、長い道のりながらも大して息が切れることはなかった。

程なくして目的に到着すると、その場にいた警備員に頼んでプロスを呼び出してもらった。

「テンカワさん、良く来てくれました。我々の戦艦はこちらです。」

待ち構えていたかのようにすばやく現れたプロスは早速彼を案内し始めた。

そう言って前を先導するプロスについていくと、そこには一隻の戦艦が鎮座していた。

「変な形してますね・・・」

その感想ももっともだろう。目の前の戦艦は、あきらかに今までの戦艦の形とは異なっていた。

「いやはや手厳しい言葉で。」

プロスは少々笑いながらそういった。

「しかし、この戦艦はネルガルの技術の最新鋭の戦艦でして、軍の戦艦とはちょっと違いますよ。」

「この艦だけで火星へ行くということはディストーションフィールドでもついているんですか?」

「ほほぉ、鋭いですな」

「そりゃ、第一次火星大戦ではあいつらと戦いましたからね。正直そんなのでもついていないかぎりあいつらに太刀打ちできません」

一見厳しい言葉のようだが、まさにその通りだ。

「それだけではありません、この戦艦にはグラビティブラストもついていますよ。」

「それじゃまるで木星トカゲのパクりですね、肝心の戦艦の名前は?」

「機動戦艦ナデシコです。」

そう言ってナデシコの中に入っていったプロスを追いかけてアキトはナデシコに入っていったがちょうど入ったところで警報音が聞こえてきた。

「ちょっとここで待っていてください。」

そう言ってプロスは、腕にあったコミュニケを使って通信を行うと、走ってどこかに行ってしまった。

その後じっとしていろとは言われたものの、警報装置が鳴り響いている中ぼーっと1人でいるわけもいかず、

ナデシコ艦内を歩いていると、格納庫らしき場所に着いた。

そこでは、何人かの乗組員がせわしそうに動き回っている。

ちょうどその時だった。プロスから通信が入ったのは。

「テンカワさん。大変申し訳ないんですが、ナデシコは今敵に襲撃されておりまして、

唯一出撃可能なパイロットであるイツキさんが出撃されているのですが敵が多すぎて大変危険な状況なのです。

ですから、今からエステバリスに乗って出撃してもらいたいのですがよろしいですか?」

彼女が危ない・・・。

そのイツキという人物は、まさしくアキトが探していた相手だった。両親を亡くしてからずっと一緒で、4年前必ず迎えに行くと約束した少女。

その相手がいま危険にさらされている。それを聞いたアキトはいてもたってもいられなくなった。

プロスがその後に何か言った気がしたかそれを無視し、急いで格納庫に置いてある一台のエステに飛び乗った。

整備員が何か叫んでいるが、意識から外しコックピットに駆け込む。急いで起動させると、いそいでエレベーターに飛び乗った。

焦る彼に、地上に向かうエレベーターの中で一人の少女が話しかけてきた。

「あなたが2人目のパイロットのテンカワ・アキトさんですか?」

無表情で淡々とそうたずねる少女は、どう見ても11.12歳といったところだ。

明らかに戦艦に乗るにはおかしい年齢だが、そんなことを気にしている場合ではない。

「そうだ、それよりまだイツキは無事なのか!?」

アキトがものすごい形相で聞いたため少女は少し怯えていたが、すぐに報告をした。

「イツキ機はまだ無事です。しかしかなりピンチです。すぐに救出に向かってください。

それと、ナデシコはまだ発進できませんので、8分後にこの地点まで敵を集めてください、お願いします。」

「了解した。」

それだけ言うとアキトはすぐにナデシコを飛び出して行った。

 

 

ナデシコブリッジ内

ブリッジの中は静まり返っていた。それも出撃したアキトの戦いを見たからである。

ルリにすごい形相でイツキの無事を確認したかとおもうと、アキトの乗ったエステは敵のど真ん中に突っ込んでいった。

誰もがやられると思った次の瞬間、アキトのエステは信じられないことに自分に向けられた敵の一斉攻撃を全て回避いていた。

その後間をおかずに敵へライフルで敵へ威嚇射撃を繰り返し、近づけさせないようにライフルをばら撒きながらイツキ機に近づいてゆく。その様はまるで鬼神のようであった。

アキトのことを思い出したユリカでさえ「こんなのアキトじゃない。」と言いっているぐらいだ。

そこへ、先ほど彼へ報告した少女、ルリの隣で同じくオペレーターをしていたピンク髪の少女、ラピスの報告が入った。

ちなみに、彼女はルリの妹である。

「テンカワ機、イツキ機に合流。」

「ちょっと、いくらなんでも早すぎない!?」

ミナトが驚いたふうに言った。

「テンカワさんだからこそできることですよ。皆さんは聞いたことがないですか? 一年ほど前まで火星で騒がれていた天才パイロットのことを。」

プロスの言ったことに皆が驚いている。

「たしか、17歳にして火星で最も強いと言われる機動兵器部隊の隊長で火星駐留軍NO.1パイロットと言われていたあの人ですか?!

「ええ、顔と名前は本人の希望により公開されなかったので誰もわからなかったと思いますが、彼がそのパイロットなのですよ。」

「彼が!?」

軍人のムネタケがびっくりしている。軍人にも彼の名前などは知らない人も多いようだ。

そんなムネタケが驚くのも無理はない。

しかし、もう一人の軍人のフクベはそんなに驚いていないようだ。むしろ懐かしいといった表情で彼を見ている。

「テンカワ機、イツキ機と一緒に目標地点まで誘導を始めました。」

ルリの報告でブリッジクルーはまたアキト機に目を向けた。

 

 

アキトSIDE

もうイツキ機は目に見えるところまできていた。しかし、目の前には敵の大群がいた。

正直どうやってここまできたのか彼自身もわからなかった。いくら元隊長とはいえ、約1年のブランクは戦場では致命的だと思っていた。

しかし、ただ彼女を助けたいということだけを考えていて気がついたら目の前まで来ていた。

と、その時、圧倒的な私物量差を前に、とうとうイツキ機が敵に囲まれてしまった。

うおぉぉぉぉぉ!!!」

そう叫びながらライフルを連射する。その弾は敵に吸い込まれるように当たり、次々と爆発していった。

振り向いたイツキを待っていたのはライフルを片手に次々と敵を撃破していくエステバリスの姿だった。

「もしかしてあなたアキト!? 何でこんなところに・・・?」

通信がきたのはそんな時だった。イツキは信じられないといった表情で見ている。

どうやら先ほどの叫びが聞こえていたのか、彼があのテンカワ・アキトであることに気がついていた。

「話は後だ! 行くぞ!!

「わ、わかった。」

そういって2人は目標地点までエステを走らせ始めた。

 

目標地点にちょうどたどり着いた時にブリッジから通信が入った。

「テンカワ機及びイツキ機、海に向かってジャンプしてください。」

「了解!!

そう言ってジャンプすると、ちょうどナデシコが浮上してきたところだった。

「まだ早くないか?」

「あなたのために急いで来たの!グラビティブラスト、発射!!

先ほどの態度はどこへいったのか、既に立ち直っていたユリカのその掛け声とともにグラビティブラストが発射され、敵が一掃された。

アキトたちのエステバリスを収容すると、ナデシコはすぐにサセボのドッグを離れて行った。

 

ナデシコ格納庫

 

そこには2台のエステが並んで立っていた。そのエステの足元にはアキトとイツキが向かい合っている。

「ほんとにアキトなの・・・?」

イツキが恐る恐る話しかけた。

「この四年ずっと君を探し続けていた。あの約束を守るために・・・・。」

「アキト・・・・・・。」

「ただいま、イツキ。」

「うん、お帰りなさい。」

イツキは泣きながらアキトに抱きついた。2人はしばらく抱き合っていた。

「感動の再開中で悪いんだが少しいいか?」

しばらく抱き合っていると、整備班の一人が話しかけてきた。

「お前が出撃してくれなかったら俺たちはこの場にいなかったかもしれない。まずその礼を言わせてくれ。」

「いえ、俺はただこいつを守りたかっただけですから。えっと・・・。」

「俺は整備班班長、ウリバタケ・セイヤだ。ウリバタケとでも呼んでくれ。」

「はい。俺はテンカワ・アキトです。」

「おう、これからもよろしくな。」

「こちらこそ。」

ウリバタケとの会話が終わるとプロスから呼び出しが入った。

「テンカワさん、戦闘が終了したばかりで申し訳ないのですが今からブリッジまで来てくれますか?」

「そういうことですので失礼します。」

アキトはいまだに抱きついているイツキと共にブリッジへ向かった。

 

ナデシコ ブリッジ内

「テンカワ・アキト、イツキ・カザマブリッジイン」

モニターにそう表示されると同時にブリッジの扉が開き、2人が入ってきた。

「アキトォーー!!

ユリカがそう叫びながらアキトに飛び掛っていったがイツキを抱いたままあっさりとかわされ、壁に衝突した。

「憎いよアキト、避けるなんて!」

「あなたがいきなり飛び掛ってきたからでしょう。だいたいあなたは誰なんですか?」

「ユリカだよ、火星でお隣に住んでた。」

始めはさっぱりわからないといった表情だったが、しだいに顔が青ざめてきた。

「ユ、ユリカってまさかあの・・・。」

「やっと思い出してくれた!? やっぱりアキトは私の王子様だね!!」

「王子様〜!?」

「どういうこと、アキト。きちんと説明してくれるわよね?」

「冗談じゃないあいつただの疫病神だ!!

「その言い方はちょっとひどいんじゃないの〜?」

ミナトがそう言ったのでアキトはその当時の頃のことを恐る恐る語り始めた。

「あいつは俺に、私の王子様ならここから落ちても平気よね、とか言って崖から俺を突き落としてみたり、

一緒におままごとをしているときに本物の包丁を持ち出してきて俺を刺してみたりしたような奴ですよ!?

唖然としているクルーを尻目にアキトは続けて言った。

「さらにそれだけじゃ懲りずに道端においてあったトラクターを遊び半分で動かして、止まらないー、

とか言いながら俺に向かって衝突してきたり、あいつのおかけで何度生死の境をさまよったことか・・・。」

「ていうか普通すでにその時点で死んでると思う。」

誰かが冷静につっこんだ。もっともである(

「あれ? 私そんなことしたっけ?」

「自分のしたことを忘れるな! それよりなんでお前がここにいるんだよ!!」

「私はこの艦の艦長さんなんだよ。」

エッヘンと胸を張りながらそう言い放ったユリカの言葉に、アキトは言葉もなくただ呆然と立ち尽くしていた。

「あの、それより先にブリッジクルーの皆さんに自己紹介をしていただきたいのですが。」

やっと元に戻ったプロスがアキトとイツキにそう言った。ナイスフォローである

その言葉でやっと意識を取り戻したアキトが自己紹介を始める。

「エステバリスパイロットのテンカワ・アキトです。ブリッジクルーの皆さんとは会う機会が多いと思いますのでこれからよろしくお願いします。」

「同じくエステのパイロットのイツキ・カザマです。これからもよろしく。」

イツキが簡単に挨拶を済ますと、アキトがプロスに質問をした。

「プロスさん、俺の部屋はどこですか? 今日は疲れたのでもう休みたいのですが・・・。」

「テンカワさんはイツキさんの部屋の隣になっておりますのでイツキさんに案内を頼んでよろしいでしょうか?

私は少々やらねばならないことがありますので。」

「いいですよ、じゃあ行きましょ、アキト。」

そう言ってイツキに腕を引っ張られながら部屋に戻っていった。ユリカが何か言っていたような気がしたが、相手にしたら余計に話がこじれる気がしたので無視をした。

イツキと話しながら部屋まで戻ったが、荷物の整理など、やることがあったので後で会うことを約束してから、その場は別れた。

部屋に戻るとアキトは既に部屋に運ばれていた自分の荷物を整理し始める。

しかし、元からあまり物を買うような人間ではないため、少なかった荷物はあっさりと片付いてしまった。

そして、彼女と会う約束があったものの、疲れていた彼は、すぐにベットに横になった。そしてすぐに眠りにつき、アキトの長い一日が終わりを告げた。

 

アキトが去った後のブリッジ内で副長のアオイ・ジュンが、

「あんただれ?」

と、きょとんとした顔のブリッジクルー全員にそう言われたのは、非常に些細なこと些細なことであろう(

 

 

第二話END

 

あとがき

どうも、あまりの駄目さ加減に途中で改定することを投げ出してしまった雄飛です。

本当はもう少し改定したかったのですが、暇も無ければこんな駄目文を改定する気力もなかったもので・・・。

しかし、以前と比べるとかなり読める作品にはなったのではないかなと思ってします。

以前のバージョンはひどかったですから・・・。

最後の方、特にユリカとの再開の場面はまったく手加えてません。あそこは手のつけようがありませんでしたから(笑

あまり長々と書いてるわけにもいかないので、今回はこれにて終了。

これからの作品のためにもどんどん感想をください。