起動戦艦ナデシコ 劇場版if  〜例えばこんな終わり方〜

 



見つめていれば吸い込まれそうなほど澄んだ青い空。

そんな中彼女は立っていた。目の前にはまだ真新しい墓が1つ。

墓を目の前にした彼女の表情は悲しみと困惑に彩られていた。

いっそのことこの世から・・・。
そんな事を考えもしたが、結局実行することはなかった。

それは「彼ら」の望んだことではないから。

彼女はもう一度墓を見る。その墓には「テンカワ・アキト、ユリカ」と書かれていた。

「教えてください、アキトさん、ユリカさん。私はこれからどうすればいいのでしょう・・・」

そうつぶやいた彼女の目からは涙があふれていた。

そして彼女は思い出す。彼らが死んだ時のことを。

彼らは何を思い、そして自分に何を託したかったのか。

彼女の思考は堂々巡りを繰り返すだけだった。

 

〜回想〜

 火星の後継者事件、それは元木蓮中将草壁らによって行われた。遺跡を巡った2度目の争い。

火星の後継者達はA級ジャンパーであるユリカを遺跡に組み込むことによってボソンジャンプを意のままに操り、

地球軍に対して宣戦布告をしてきた。地球側の軍内部からも賛同者が続出した。

しかし、この事件は二人の人物の功績によって驚くほど早く鎮圧されることになる。

それは、ナデシコCを率いるホシノ・ルリと今やテロリストの肩書きを持つテンカワ・アキトである。

二人の功績により遺跡の奪取に成功し、草壁などの火星の後継者の首脳陣たちを捕らえることに成功した。

しかし、それはあくまで火星にいた者が捕らえられたというだけであった。

地球にいた者、火星へ向け移動中だった者は事件の終結を聞き、身を潜めることになった。

中には降参する者もいたため、数はそれほどでもなかったが。

事件の一番の功労者であるホシノ・ルリは火星の後継者の残党を捕らえよとの命令を受け、ナデシコBにて残党を探しながら宇宙を移動中であった。

とはいっても、残党がどこにいるかなそう簡単にわかるはずもなく、残党を探して宇宙をさまよっていた。

(ナデシコCならもっと簡単に探し出せるのに・・・)

と、ルリが心の中でつぶやいた。しかし、ナデシコCは今凍結中で使えるはずもなかった。

何故凍結になったのかというと、火星の後継者事件を思い出すとあきらかである。

そう、ルリの率いるナデシコCは一瞬にして火星全土を制圧して見せたのだ。それを見た地球軍首脳陣は事件終結後、

直ちにナデシコCを凍結することを決めた。その火星を制圧して見せた力を持って自分達に反乱を起こされることを恐れたのである。

下手をすれば火星の後継者より厄介な敵になると判断した軍首脳陣は、自分達の判断無しでは使用できないようにした。

「前方に火星の後継者の残党を発見しました。けどもう既にどこかの船と戦闘に入ってるみたいです・・・」

サブオペレーターであるハーリーの言葉で我に返ったルリはすぐに確認に入った。

「この船の反応はまさか・・・」

「どうします、艦長?」

「急いでその地点へ向かって! あとサブロウタさん達にも出撃準備をしておくように言っておいて!!

「了解!

そう返事はしたものの、ハーリーは内心驚いていた。

(いつも冷静な艦長がこんなに取り乱しているなんて・・・)

そんなことを考えていたが、今は言われた事を優先することにした。

 

 

数分後にはその戦闘区域付近まで近づくことができた。しかし、残党は1隻の戦艦によって完全に沈黙していた。

辺りにはもうその戦艦以外には無残に散っていった残党達の残骸しか残ってはいなかった。

「前方の戦艦の識別出ました、ユーチャリスです」

「やはりそうでしたか・・・」

ルリはそうつぶやくと同時にハーリーからの連絡が入る。

「ユーチャリスから通信が来ています」

「やはり来てしまったか、ルリちゃん・・・」

そこにはまぎれもなくアキトの姿が映し出されていた。傍らには桃色の髪の少女、ラピスの姿もある。

「来てしまった、とはどういうことですか、アキトさん? 私たちはあなたの帰りを・・・」

「そういう意味ではないんだよ、ルリちゃん。」

「ではどういう・・・・・・」

すべて言い切る前にルリは気づいてしまった。ユーチャリスのあちこちから火花が散っているのに。
装甲もボロボロで、いつ爆発してもおかしくない状況であった。

「気づいたようだね、もうこのユーチャリスがもたないことに」

「そんな、何故こんなことに・・・!

「引き際を誤った、というところか。ルリちゃんが来なかったらここで爆発しておしまいだったのだが、

ここで爆発してしまうとキミ達を巻き込んでしまう」

そうアキトが言い切ると同時にユーチャリスに変化が現れた。

「まさかアキトさん、ボソンジャンプを・・・」

「この場を乗り切るにはこの方法しかないんだよ、ラピスを道連れにしてしまうのが心残りだけどね」

ラピスの頭をなでながら穏やかな表情でそういった。その表情は闇の王子の表情ではなく、ナデシコに乗っていた昔のアキトのものだった。

「いやです!もう私を一人ぼっちにしないでください!!

「それは違うよルリちゃん。キミはもう一人じゃない、かけがえのない仲間ができたじゃないか。
キミを支え、励まし、そして笑いあえる仲間が。そこがルリちゃんの居場所だ。君はこっち側にきてはいけない存在なんだ」
「なんでですか! 私もアキトさんと一緒に・・・」
「君はまだ光の中を歩くことができる。そして、いつか世界が君を必要とする時がくるだろう。もう君は君一人だけの存在ではないんだ。
あの事件から世界は着実に君を中心に回り始めている。だから君はこんなところで死ぬべきではないんだ」

ボソンの光がユーチャリスを包み始めた。

「さようなら、ルリちゃん。ユリカのことをよろしく・・・」
その言葉を残してユーチャリスはボソンの光の中へと消えていった。

「アキトさん。こんな、こんなことって・・・」

ルリは一人静かに泣いた。

これがテンカワ・アキトがこの世から消えた瞬間であった。

 

 

〜数日後、病院にて〜

悪いことというのは、一度起こると立て続けに起こるものである。

悲しみにくれる間もなく任務に明け暮れていたルリであったが、ユリカの容態が急変したと聞き急いで病院へと駆けつけた。

(どういう顔をしてユリカさんに会えば・・・)

ルリの頭の中はそのことでいっぱいだった。ルリは性格上全て自分一人で何もかも背負い込もうとする癖がある。

今回の1件もそうだった。自分がもう少し早く着けばアキトさんは・・・。そんなことばかりを考えていたために、

結局ユリカに会うことがないまま時が過ぎたのであった。

(ここで止まってるわけにはいかない)

そう思ったルリは病室の中に入る決心をした。

「ユリカさん、私です」

ノックをした後そういってユリカの返事を待つ。

「どうぞ」

中からはユリカには似つかないあまり元気のなさそうな声が聞こえた。

「お久しぶりです、ユリカさん」

「ほんと久しぶりだね、元気だった?」

「一応は・・・」

二人の間に気まずい雰囲気がながれる。先に言葉を発したのはルリの方だった。

「あの、ユリカさん。私ユリカさんに謝らないといけないことが・・・」

「アキトのこと、でしょ?お父様に聞いたよ。お父様隠し事してても態度にでちゃうから」

苦笑しながら話すユリカにルリは唖然としていた。
「何も言わないんですか?私がアキトさんを見殺しに・・・」

「そんなことない、あれは仕方がなかったんだよ。アキトだってルリちゃん恨んでないと思うよ?」

「しかし、私が・・・」

「そんなこと言っちゃだめだよ? 誰もルリちゃんを恨んでなんかいないんだから。

それよりアキトと最後会ったときのこと詳しく話してくれないかな?」

ルリは少しずつ話始めた。あのアキトが消えた日のことを。

ルリとアキトが会ったときにはもうユーチャリスは手遅れな状態だったこと。

そして、アキトがルリに最後に言った言葉を。
「なんだかアキトらしいね」

くすくす、と笑いながらユリカが答える。

「どういうことですか?」

言葉の意味がまったくわからなかったルリはユリカに聞き直した。

「それは・・・。ゴホッ、ゴホッ!!

「大丈夫ですか、ユリカさん!?」

いきなり咳きをし始めたユリカにルリはビックリした。急いで医者を呼ぼうとしたがユリカに止められた。

「そろそろお別れみたいなの、ルリちゃん」

「そんな!?」

ルリはそれ以上何も言うことができなかった。

「ごめんね、ルリちゃん」

「私を、また一人ぼっちにするんですか・・・。やっと二人に会えたと思ったのに、アキトさんも、ユリカさんも・・・」

「泣かないで、ルリちゃん。アキトも言ったと思うけどルリちゃんはもう一人じゃないんだよ?もうちゃんとした居場所があるじゃない。

そこにいる人たちが、いえ、それ以外にもたくさんの人たちがルリちゃんを必要としているの」

途切れ途切れの声でユリカが言う。

「たとえ死んでも 心は 離れることはないから。だから さよならは 言わない。

ただ 私たちに囚われず ルリちゃんは自分の人生を 歩んでね。それが ユリカの 願・・・」

「ユリカさん・・・」

ルリは声を殺して泣いた。医者が病室に入ってくるまで、ずっと。

 

 

 

〜現在〜

 

「アキトさん、ユリカさん。結局私に何を望んでいるのですか? 私は二人を失ってまで生きていけるほど強くは・・・」

墓を前にして泣く。二人が死んでから幾度となく繰り返してきた光景だった。

アキトとユリカの言葉の意味がわからず、生きる気力をルリは失くしかけていた。

ただ青く広がる空がルリをいっそう悲しくさせていた。

「二人を2度も亡くして、私は・・・」

ちょうどそんな時だった。ルリの後ろから声がしたのは

「艦長〜」

振り返るとそこにはサブロウタとハーリーの姿があった。

「やっぱりここでしたか。ハーリーが艦長のことが心配だってうるさいものでしたからお迎えにきました」

「サブロウタさんの方がうるさかったじゃないですか!!大体あなたは・・・」

ふと気づくと、二人の何気ない会話を聞いて笑っている自分がいた。

その瞬間、ルリはアキトたちが言ったことを少し理解できた気がした。

確かに自分は一人ではなかったのだ。ナデシコBの皆、旧ナデシコクルーの皆に元木蓮の人たち。

自分はたくさんの人たちに支えられ、そして支えあってきたことにやっと気づくことができた。

当たり前すぎて当の昔に忘れていたこと。しかしこれほど大切な、そしてかけがえのないものはない、ルリは改めて実感した。

「艦長〜、早く〜」

「今行きますよ」

ハーリーの呼びかけに答えた後、ルリは走り出した。

もう後ろは見ない。確かに二人が死んだことは悲しい。けど自分には仲間がいるから。

まだアキトたちが自分に何を託したかったのかはまだわからない。けどそれはこれからゆっくり考えればいい、とルリは思った。

1歩1歩駆けていくルリの目には確かな意思が宿っていた。

 

 

 

 

END

 

 

あとがき(のはず

約2ヶ月ぶりの小説更新であります。

今回初めて短編を書いたわけですが、これほど短編が難しいものだとは思いませんでした。

しかし、それだけにいろいろと勉強になることが多く、書いてよかったと思います。

さて、今回の短編ですが、これは授業中にふと思いついたものであります。

ぼーっとして授業を聞いていたときにふと「こんな短編いいかもな〜」と思い、書き始めた次第であります(

こんなものを書いてないで長編を書け、って言われると反論できないのですが・・・。

この短編をきっかけにまた更新作業を再開していきたいと思いますのでよろしくお願いします。

最後にこんなダメ文を読んでくださった人、ダメ文すぎてすいません。

こんな小説でよかったらどうぞ掲示板かメールで感想をください。

管理人、案外調子に乗りやすいので感想などが来たら更新スピードが2倍以上に跳ね上がる可能性があります(核爆