DC版 機動戦艦ナデシコ NADESICO THE MISSIONN SS

 

――君の光に――

Chapter 4---ファントムと少女

 

 

 

居住ブロック、コウの部屋。

 

 

 

 

「ご苦労様。大変だったわね、着任早々戦闘とは。」

 

 

 

端末のディスプレイに映るエリナがそう言い放つ。

 

 

 

「まったく、ネルガルのシークレットサービスってなどーなってんですか?ちょっと不手際多すぎですよ?」

 

 

 

まるで他人事のように言うエリナに、呆れながらコウは返した。

 

 

 

「・・・ま、あなたの肩書きの件は完全なこちらの落ち度ね。誤っておくわ。ごめんなさい。」

「奴らが動くのもどんどん当初の予定より繰り上がってるみたいだけど?」

「それはあくまで試算でしかないから仕方ないわ。それを現場で修正するのもあなたの仕事でしょう?プロスペクターさんもフォローしてくれるはずよ。表立ってはしないけれど。」

 

 

 

ふぅ、と一息つくと、これ以上彼女に言っても無駄だと思い、さっさと定期連絡を切り上げることにした。

 

 

 

「まあいいや。とにかくこれから月にむかう。その後はまずは火星だな・・・。」

「いい?あくまでも慎重にね?ネルガルとしても莫大な出費を払ってるんだから!」

「はいはい、と。」

「あ、ちょ・・・・!」

 

 

 

言い終わる前にモニターの電源を落とすコウ。余分なお説教を貰わない様にする最良の手段だ。彼女の小姑のような細かさが秘書としては有能なのだろうが、コウは実に苦手だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あなたが・・・来るの?」

 

 

 

ハッとして振り向くと、少女がいた。

床まで届くほどの青い髪をたなびかせ、白いワンピースを着た、少女だった。

いったい、どこから紛れ込んだのか?いや、それよりもコウは少女が部屋に入ってくるのに全く気付かなかった。どうやって部屋に入ってきたのか?

 

 

 

少女の問いかけは謎めいていた。要領を得ないのに、無視できない。心の奥に問いかけて来るような言葉だった。

 

 

コウは聞き返す。

 

 

 

「来る?」

「・・・私のところに。」

「私の所?」

「・・・木星に。」

「・・・君は誰・・・?」

 

 

 

唐突に――――コウの過去が頭の中でフラッシュバックする。

コウはとっさに右手で頭を抱え、ふらつく体をなんとか左手で支えた。

 

 

 

「―――――!?今の・・・・は?」

「あなたの過去。見せてもらったの。」

「そいつは・・・・また、随分酔狂なことで・・・。」

「とてもとても興味があるの。」

「く・・・・デートのお誘いなら、もう少し大人になってからにしたらどうだい?」

 

 

 

足取りのおぼつかない姿でなお強がりを言う。少女は、少しだけ微笑んだ。

 

 

 

「あなたならきっと・・・。」

「きっと?」

「・・・“ファントム”には気をつけて。」

「“ファントム”?」

「ごめんなさい。今はまだ、他の人に姿を見られたくないの。もう、行くわ。」

「言うこと全部抽象的過ぎてなにがなんだかわからないんだけどな。」

「すぐ・・・わかるわ。木星に来れば。」

「・・・木星・・・・・・・・・・。」

 

 

 

ようやく頭痛が少しずつ治まり、楽になってくる。それと同時に、コミュニケが開く。

 

 

 

「艦長。いま少しいいですか?」

「ルリちゃんか・・・。ああ、構わないよ。」

 

 

 

何事もなかったように振舞うコウ。

 

 

 

「すみませんが、食堂まで来て貰えますか?今後の検討をプロスペクターさんとしているところなんです。」

「わかりました。」

「お願いします。」

 

 

 

振り向くと、もうそこに少女はいなかった。

 

 

 

「あの・・・。」

「わぁ!まだ閉じてなかったの!?」

「・・・どうかしましたか?顔色、良くないです。」

 

 

 

心配そうに聞くルリ。まだ少し先程の眩みが残っていたのだろう。コウは軽く額の汗を拭う。

 

 

 

「いやぁ、慣れない環境で少し疲れが出たかな?」

 

 

 

誤魔化すように笑うコウ。

 

 

 

「・・・ミーティング、後にしましょうか?」

「大丈夫だよ。すぐに行くから。」

「はい。」

「ルリちゃん。」

「はい?」

「ありがとう。」

「別に・・・。」

 

 

 

そう言ってルリは今度こそコミュニケを切った。コウはそれを確認すると、オモイカネにアクセスをする。

 

 

 

[はい]

「オモイカネ。艦内の緊急点呼を頼めるかな?」

[了解・・・・・・・・・点呼終了。乗艦全クルーを確認。]

「人数はぴったり?」

[はい。127名全員確認しました。]

「このフネで最年少の女性はルリちゃんだよね?」

[そうです。]

「そうか・・・。」

 

 

 

ならばあの少女はなんだったのだろうか?幻?

 

 

 

(幻・・・・ファントム?)

 

 

 

結局、少女のことは解らずじまいだった。

 

 

 

(ま、考えてもどうにもならないか。)

 

 

 

「オモイカネ。」

[はい。]

「僕のアクセス履歴は隠蔽しておいてくれ。ルリちゃんにもばれないようにね。」

[・・・・。]

「どうした?」

[ルリは私の友達。]

「隠すことが結果的には彼女の助けになる。僕の目的と彼女の利害は一致するはずだ。今は隠しておいてくれないか?」

[・・・解りました。]

 

 

 

(友達・・・か。本当におかしなAIだ。)

 

 

 

コウは苦笑すると、急いで食堂に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――ブリッジ上部デッキ。

 

 

 

 

月ドッグへと進路をとるナデシコ。先制攻撃を防いだ後は、敵からの攻撃もなく、順調に行けば翌朝には月に到着する。

オートナビゲーションシステムで目的地まですることもなく、さりとて目下の状況で敵に気を配らないわけにも行かず、ブリッジには見張り役としてハーリー君が残っていた。

 

 

 

「・・・はぁ。暇ですね・・・。」

 

 

 

彼はルリ以外で唯一ワンマンオペレーションシステムを掌握できる存在である。無論、動かせればいいというものではないが。

しかし色々な意味で非常に使い勝手のいい人材である。何せ―――

 

 

 

「ルリちゃんの変わりが出来るのはハーリー君しかいませんよ。」

 

 

 

の一言で簡単に乗せられるからである。

 

 

 

「・・・よく考えたらただの見張りなんだから、ルリさんの変わりでもなければ、誰でも出来るんですよね...。」

 

 

 

気付くのが遅い。

 

 

 

(とにかく交代の時間までしっかり勤めないと・・・。)

 

 

 

ハーリーはあくびをかみ殺し、目の前に移る月が近づいてくるのをひたすら待った。

その時ハーリーの視界に微かに何かがよぎった。

 

 

 

「え?い、今の・・・で、でもオモイカネも反応してないし・・・・?」

 

 

 

確かにエステバリスの機体のようなものがよぎったように見えた。しかし一瞬で消えてしまった。

 

 

 

「・・・・・・・・・・。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――食堂“日々平穏、ナデシコ支店”。

 

 

 

 

「お待たせしました。」

「すみませんな艦長。お休みのところ。」

 

 

 

プロスペクターとルリが既に席についていた。遅れてきたコウもルリの隣に座る。

コウがコーヒーを注文すると、それが届くよりも先にプロスペクターが口を開く。

 

 

 

「さっそくですが、艦長。今後火星の後継者の残党との戦闘が予測されますので、その対応策を練っておきたいのですが・・・。」

「・・・何か、問題が?」

「いえ、艦長はエステバリスの方にも乗られるということでしたので・・・・はい。」

 

 

 

そこで一度言葉を切ると、それを受けてルリが続ける。

 

 

 

「・・・訓練航行なら構わなかったんですが、実戦で艦長がエステに乗りながら指示を出すのは負担が大きすぎるのではないでしょうか?」

 

 

 

おまたせしました、とウェイトレスがコーヒーを差し出す。それを一口含むと、コウが微笑みを携えたまま答える。

 

 

 

「負担という点は考慮の範囲外において頂いて構いません。指揮に影響はしないようにします。状況に応じてエステが必要なときだけ出ようと思っています。」

「しかしですな・・・エステから指揮を取れますかな?」

 

 

 

プロスペクターがやや厳しい口調で問いただす。先ほどエリナに通信した際、彼もコウの立場を理解していると確認は取れている。

だとすると、“見習い艦長で大丈夫か”という不平が出る前にあえて彼から切り出そうということだろう。そのお芝居にコウも乗ることにした。

 

 

 

「はばかりながら可能であると自負しています。万が一の場合にもルリちゃんがいるので問題はないでしょう?」

「・・・解りました。艦長がそう言うなら、お任せします。プロスペクターさん、あとは問題が発生したらその時にしませんか?」

「そうですなぁ・・・・まあルリさんがいますから、大丈夫でしょうが・・・むしろ・・・。」

「だったらルリルリが指揮すりゃいいじゃねえか!!」

 

 

 

先ほどから聞き耳を立てていたリョーコたちが口を挟む。

 

 

 

「そうそう、私もそう思うよー!その方が話が早いじゃん!」

「二兎を追うもの・・・・一兎をも得ず・・・・。」

 

 

 

ヒカルとイズミも続く。

 

 

 

「素人にしちゃあ良くやったとは思うが、イキナリ実戦じゃあちと荷が重いだろうしなぁ。」

 

 

 

ウリバタケもその後ろで聞いていたのか、ひょっこりと顔を出す。

 

 

 

「・・・。(予定通りなんだが、なんか腹立つな。)」

 

 

 

コウはじっとこらえて沈黙を押し通した。

 

 

 

「どうでしょうか?艦長。みなさんもこうおっしゃっていますし、この際指揮権を移譲なされて、パイロット、あるいはブリッジクルーとして在艦なされるというのは?きっと今後のためによい経験になると思いますが?」

「待ってください。」

 

 

 

そう声をあげたのはルリだった。彼女にしては珍しく、少しだけ声を張り上げた。

 

 

 

「今回オモイカネには訓練任務としてのプログラムが入力されていて、既に艦長登録もされているんです。今からシステム変更すると、オモイカネが混乱します。」

「・・・それでは、ルリちゃんの意見は?(ちぇ、僕が反論したかったのに。)」

 

 

 

コウが促す。

 

 

 

「このまま艦長が指揮を執ってください。」

「ふむ・・・・皆さんの意見は?」

 

 

 

言って、周りを見回す。

 

 

 

「まあ俺はどっちでもいいけどよ。」

 

 

 

リョーコ。

 

 

 

「ルリちゃんがそういうならねー。」

 

 

 

ヒカル。

 

 

 

「まあ、そう言うことならしゃーねーなぁ。俺たちで新米艦長をカバーしてやるかぁ!」

 

 

 

ウリバタケ。皆口々にルリの意見に賛成の意を示す。

 

 

 

「それでは皆さんの意見はでそろったようですなぁ。艦長、改めて一つ、よろしくお願いしますよ?」

 

 

 

あっさりと前言を撤回させるプロスペクター。もともとそのつもりだったのだから当然だが。

 

 

 

「ええ。それでは早速少し残務処理がありますので、部屋に戻ります。履歴の修正もしておかなければいけませんからね。」

「あ、すいません。よろしくお願いします。」

 

 

 

そう言ってコウが食堂を後にする。

 

 

 

「取り敢えずはこれでよし、と。しかし、ルリちゃんがフォローしてくれるとは思わなかったな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さかのぼって、コウイチロウとの対談―――。

 

 

 

「やあナデシコの諸君、久しぶりだねぇ・・・ルリ君も元気そうで何よりだ。」

「はい、司令も。」

「君が艦長候補生のアスター君だね?いやぁ、今回はとんだ災難だったねぇ。」

「いえ。」

 

 

 

いかつい顔から紡ぎだされた言葉は意外にも柔和な台詞だった。どうやら今回の行動が問題となったわけではないようだ。

コウはやや引き締めた面持ちで答えた。緊張、と言うよりは緊張してるふりだろう。

 

往々にして初対面の相手にはそうするクセがコウにはあった。相手の出方を伺いつつ、最善の対応を探るのがコウのスタンスであった。

危機管理能力の一端なのだろう。それを必要とする人生をコウは歩んできた。

 

 

 

「さて、実は君達には2つ報せがある。良い報せと悪い報せだ。どちらから聞きたいかね?」

 

 

 

もったいつけるミスマル・コウイチロウ宇宙軍総司令(47)。サリーちゃんのパパに似ているというのは内緒だ。

 

 

 

「あ、俺断然良い報せってやつから!」

「はは、サブロウタさん兄弟いるでしょ?」

「あれ、わかります?艦長。」

「兄弟いると美味しい物から食べる習慣がつきやすいんですよ。」

「そーそー、なんせ先に食われちまったらそれまでっすからねぇ。木蓮は質素な飯が多かったからなぁ。」

 

 

 

しみじみと語るサブロウタ。そんなところにも厳格だった木蓮時代からすでに今のサブロウタの下地が表れていたのかもしれない。

 

 

 

「いやぁ、しかしウチのユリカなんかは一人っ子だが好きなものを先に食べるタイプだがねぇ?」

 

 

 

コウイチロウが咎めるどころか率先して脱線する。

 

 

 

「・・・ユリカさんの場合は嫌いなものは食べませんからね・・・。」

 

 

 

やや呆れ気味に言うルリ。もちろん原因はコウイチロウのユリカ溺愛のせいだ。

 

 

 

「うむ、あの子はワシに似て面食いだからのぉ。」

 

 

 

なぜか満足げなコウイチロウ。自分のせいだとはこれっぽっちも思ってないのだろう。

 

 

 

「総司令も親としては気が気ではなかったでしょうなぁ・・・。」

「わかってくれるかね、プロス君。」

「わかります、わかりますとも。」

 

 

 

がっちりと目線で握手を交わすおじさん二人。

 

 

 

「だから、なんでどんどん話が逸れてっちゃうんですかぁ〜〜〜!」

 

 

 

あまりの脱線振りに思わず叫ぶハーリー。実に最もな台詞だ。言い方はヒステリックな子供だが。

こほん、と咳払いを一つすると、コウイチロウはあらためて居住まいを正し、真剣な面持ちで話し出した。

 

 

 

「えー、ではまず先程の君達の報告のことだが・・・。」

「・・・・・。」

 

 

 

さすがにその事になるとブリッジに緊張が走る。

 

 

 

「君達が心配するような懲罰的な措置はないから安心したまえ。」

「ほ、本当ですか!?」

 

 

 

ほっとした表情でハーリーが聞き帰した。それはもちろん皆の総意でもあった。

・・・約一名を除いて。

 

 

「良かったですね、艦長。」

「ん?ああ、そうだねー。まあ色々何とかなるもんだよ。ははは。」

 

 

 

処罰対象の当の本人でありながら最初からまるで意に介していなかったコウは、一人コウイチロウの話も上の空で聞いていた。

ハーリーの声にようやく我に返って答えた台詞も生返事だった。

 

 

 

「・・・全然気にしてませんでしたね?」

「え?いやー、そんなことは・・・。」

 

 

 

冷ややかな視線を送るルリ。

 

 

 

「そ、そうなんですか?僕なんかもうドキドキしてましたよぉ!」

「気にしてても仕方ないからねぇ。」

 

 

 

ひらひら、と右手を振ってみせるコウ。

 

 

 

「実はその事が良い報せであり、こっからが悪い知らせなんだが・・・。」

「もったいぶらずに話してください、総司令。」

 

 

 

ルリが急き立てるように促す。

 

 

 

「うむ・・・実は君達が遭遇した艦隊は“火星の後継者”の残党だと言うことが判明した。」

「!」

 

 

 

火星の後継者の残党―――それは少なからずナデシコの面々に驚きを与えた。ブリッジが沈黙していた。

最初に口を開いたのはコウだった。

 

 

 

「・・・というと、前回の革命騒動の・・・。」

「うむ、君は当時はまだ学生だった・・・・いや、一応今も在籍中だったね。」

「はい。」

「とにかく、その火星の後継者が再び決起をしたそうだ。先程統合軍宛に声明が届いた。」

 

 

 

そう言うと、その決起声明がメインディスプレイに映し出される。みな固唾を呑んで見つめた。

 

 

ディスプレイに一人の男が映し出される。かつての火星の後継者と同じ服を着、現政府批判と独自の施政方針演説を説いている。

しかし、コウの目線はその脇に映る男に釘付けになっていた。

 

ビクッ!!

 

一瞬とはいえ、氷のような視線を見たルリが体を震わせた。

それほどの、殺気を帯びた視線だった。

 

 

 

(あいつは・・・・・・・・・・!!くっく・・・、左腕がうずく...ぜ。)

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・しかし、今更どうしようっての?」

 

 

 

映像を見終わって、サブロウタが一言漏らす。

 

 

 

「そうですよ。その事はもう終わったんじゃないんですか・・・?」

 

 

 

ハーリーも続いた。彼らにしてみれば、あの革命事件は自分達で終止符を打ったと言う自負もあるのだろう。

 

 

 

「まあ、彼らにしてみれば終わってはいなかった、という事だろう。今回の首謀者は南雲善政と言う男だ。木蓮出身の元統合軍中佐だよ。」

「・・・べたべたの木蓮人間って感じですね。サブロウタさんがこの人達とげき・・・うんたらってやつに染まって熱血漢やってたと思うと、笑いを・・・もとい、驚きを禁じえません。」

 

 

 

茶化すようにコウが言う。

 

 

 

「悪かったっすね!!」

 

 

 

触れられたくない傷だったのだろう。

 

 

 

「それでだ、木蓮出身のタカスギ大尉はじめナデシコの諸君。」

 

 

 

コウイチロウも嬉しそうにコウに続く。元来そういう性格なのだ。

 

 

 

「“木蓮出身のタカスギ大尉はじめ”っていらないでしょ!絶対!!」

 

 

 

いつもはからかう立場のサブロウタがからかわれているのが面白く、思わずこぼれる笑いを必死に堪えるハーリー。

そのハーリーに向かってコミュニティバンドを投げつけるサブロウタ。

 

 

 

べしっ!!

 

 

 

「いたっ!!」

「笑ってんじゃねえよ、ハーリー!!」

「何ですかぁ!!こんなもの投げつけることないでしょ!」

「るせえ。」

「・・・2人とも、そろそろお仕事に専念してください。司令も、ふざけないで下さいね。」

 

 

 

今まで黙っていたルリが静かな口調で忠告する。

威圧度ナンバーワンだ。

 

 

 

「「「すみません・・・・。」」」

 

 

 

思わずたじろぐ3人。

 

 

 

「そうですよ、皆さん。」

「艦長もです。」

「あ、そ・・・。」

 

 

 

一人たじろがないコウであった。

 

 

 

 

 

「では、あらためて・・・。君たちにはその南雲善政率いる火星の後継者の残党狩りを頼みたいのだ。」

 

 

 

今度こそ本題に入るコウイチロウ。コウも真剣な面持ちで答える。

 

 

 

「・・・訓練航行、という立場にあるナデシコBで、あえて・・・・なぜでしょう?」

「うむ、アスター君。君の質問はもっともだ。その理由だが...まずは極秘で進めてほしいのが一つ。」

「まあ前回のごたごたの騒ぎがどうにかこうにか沈静化しつつあったところにこれですからねえ・・・。内密にと言う気持ち、わからなくはありません。」

 

 

 

プロスペクターが一人頷く。

 

 

 

「その通りだ。まあ統合軍にしてみても大した脅威と見ていないのだろう。対応は一任すると言ってきたよ。」

「厄介ごとはこっちに、ってわけか。」

「そういうことだね、木蓮出身のサブロウタさん。」

「だからそりゃもういいって言ってんでしょ!」

「・・・艦長。」

「はい、すいません。」

 

 

 

ルリに睨まれ、コウは肩をすくめる。

 

 

 

「はっはっは。すっかりナデシコに打ち解けているようだね、アスター君。」

「いやぁ、友人にはよく『君なら宇宙人とでも打ち解けられるよ』と褒められますよ。」

 

 

 

笑顔で返すコウ。呆れ顔でハーリーが呟く。

 

 

 

「それ、絶対褒め言葉じゃないと思いますよ・・・?」

「どっちかっていうと馬鹿にされてるな・・・。」

「・・・・ばか。」

 

 

 

ルリとサブロウタも同意見だった。

 

 

 

「とまあこんなキツメなコミュニケーションも可能なぐらい打ち解けてます。」

「はははは、素晴らしい事だ。さすがは宇宙軍の未来の士官候補生だ。」

「恐縮です。」

 

 

 

敬礼のポーズをとるコウ。

 

 

 

「なんか最初と随分キャラ変わってますよね、艦長。」

「猫かぶってたんだろ?もはや別人だ。」

「まあ、彼にして緊張していたのかもしれませんなぁ。」

 

 

 

ハーリー、サブロウタ、プロスペクターがそれぞれ半ば呆れ顔で嘆息を漏らす。

しかし、ルリだけは違う所感を持っていた。

 

 

 

「・・・もしかしたら、今も猫を被っているのかもしれませんよ?」

「え?」

「・・・いえ。」

 

 

 

独り言のように呟いた言葉は、しかしルリの胸の中だけに収められた。

 

コウイチロウが再び真面目な顔に戻ると、コウ達にあらためて指示を下す。

 

 

 

「名目上は訓練航行と言うことで、くれぐれも極秘でことを進めてほしい。ルリくん、アスター君・・・艦長の補佐をよろしく頼むよ。」

「はい。」

「まずは月ドッグで一度補給を受けるといい。実践を想定した配備はしていなかっただろうからね。」

「了解しました。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

閑話休題(もとにもどって)―――ブリッジ上部デッキ

 

 

 

 

 

 

「幽霊ぃ〜?」

「本当なんですよ!!」

 

 

 

休憩時間中にハーリーに呼び出されてブリッジに来たサブロウタは、そのハーリーの言動にあからさまに不信感を露わにした。

それでもあまりに真剣に言うもので、仕方なくサブロウタも確認する。

 

 

 

「レーダーにゃ何にも映ってねえぞ?」

「だから幽霊なんですよ!!」

「見間違いってことなんじゃねえの?」

「違います!!この目ではっきりと見たんですから!!」

 

 

 

珍しく一歩も引かないハーリーにやや気おされつつも、最初から信用していないサブロウタは適当な解決案を出す。

 

 

 

「まあ幽霊だろうが別に敵って訳じゃないんだから、ほっときゃいいじゃん。触らぬ神になんとやらだ。」

「・・・そ、そうかもしれないですけど・・・・一人じゃ怖いですよ〜〜!!一緒に見張りしてくださいよ!」

「え〜〜、冗談!何が悲しくて男と二人で見張りなんてしなくちゃいけねえんだよ。艦長に頼め、そう言うことは。じゃあな。」

 

 

 

ふぁ、とあくびをしながら自室に帰ってしまうサブロウタ。

 

 

 

「さ、サブロウタさ〜ん!!うう、もおいいです!!頼みませんから!!」

 

 

 

とはいいながら、やはり落ち着かないハーリー。まさかルリに泣きつくわけにも行かず、結局サブロウタの言うとおり、コウに連絡をするのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・幽霊?」

「そ、そうなんです。」

 

 

 

ブリッジに来て早々、やや面食らいながらハーリーの話を聞くコウ。

 

 

 

「エステバリスの?」

「は、はい。だってレーダーに映らないんですよ?でも、確かに見たんです。」

 

 

 

普通なら適当に聞き流すところだったが、コウは例の少女のことが気にかかっていた。

 

 

 

(レーダーに映らないエステ・・か・・・。)

 

 

 

「・・・正確な時間はわかる?」

「え?え、えーと、30分ぐらい前としか・・・。」

「じゃあそこから前後20分の外部電波受信データ及び周辺宙域の航行データを上げて。あと、オモイカネの警戒レベルを2ランク上げておこう。」

「あ、はい!!」

 

 

 

(艦長、僕の言うこと信じてくれてるんだな・・・。)

 

 

 

 

 

 

「うん、特別気になる外部電波も飛行物体も確認されていないね。」

「・・・やっぱり僕の見間違いだったんでしょうか・・・?」

 

 

 

下を向いて俯いてしまうハーリーの頭を前のようにぐしゃぐしゃとしてやるコウ。

 

 

 

「わわわ、や、やめてくださいよ〜!!」

「ほら、男は下向いてちゃあだめだ。いつだって前だけ向いてなきゃな。」

「う・・・・は、はい。」

 

 

 

にやり、と笑うと、コウは続けた。

 

 

 

「それに、この資料からわかるのはデータには何も残ってないって事だけだ。オモイカネのセキュリティをかいくぐられたらデータも残らないわけだしね。」

「え?で、でもそんな事可能なんですか?現在のオモイカネとナデシコBのセキュリティは軍の中でもトップクラスですよ?」

「さあ?ただ可能性の問題だからね。」

「可能性・・・ですか。」

 

 

 

そんな可能性ってあるのだろうか?ハーリーには思いも寄らない発想だった。たとえ最新鋭のナデシコCであっても、レーダーをかいくぐりつつ行動をとることは不可能だ。

 

 

 

「まあ現状ではこれ以上できることはないね。ハーリー君も疲れただろう?後は僕が変わるから、君も休んできていいよ。」

「そんな、艦長だってお疲れなんじゃ・・・。」

「どの道処理しなきゃならない残務が残ってるから。なんせ大学生と2足のわらじなんでね。」

 

 

 

本当は大学生ではないが、残務処理が残っているのは嘘ではなかった。

 

 

 

「・・・・大変なんですね、艦長。」

「だから、後は任せて部屋でゆっくりしてきな。艦長命令だよ。うーん、いいなぁこの艦長命令って。便利な言葉だな。」

「わかりました。すみませんが、後はお願いします。」

「うん、お休み。」

「はい、お疲れ様です。」

 

 

 

ハーリーはそう言って席を立とうとした瞬間に、レーダーに反応を捕らえる。それに気がつくと同時に、艦内に緊急警報が走る。

 

 

 

「ボース粒子増大!!艦長!!敵です!!」

「・・・の、ようだね。直ちに艦内全クルーに警戒態勢の指示を、パターンAで。エステは全機出動態勢で待機させてください。」

「了解しました!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

格納庫。五機のエステバリス・カスタムが並ぶ。その中の一体、金色のエステバリスが、コウ.アスターの機体だった。

敵戦力は大したことはなく、戦艦一隻のみで、機動兵器も確認されていない。ただジョロ、バッタをこれでもかと言うほど射出している。

 

すぐ背後に月ドックがあり、周りにも探査船や月軌道衛星等が多数あるために、グラビティブラストが使いにくい状況にあり、ナデシコは防御に徹し、エステバリスによる掃討作戦となった。

 

 

 

3人娘に、サブロウタは余裕の表情。敵にさしたる脅威もなく、久々の実戦を、むしろ待ち望んでいる気配だ。

コウのナデシコでのエステデビュー戦にもなる。パイロットスーツに身を包み、エステのシートに座り静かに瞑想する。

 

 

 

(エステの実戦は何年ぶりだろうか・・・っと、ここでは新人ってことだったな。)

 

 

 

「うはー、おいおい、うようよ出てくるなぁ・・・。」

「へっ、サブ、びびってんなら俺たちだけでも別にかまわねーんだぜ?ブリッジに戻っててもよ。」

 

 

 

相変わらず好戦的なリョーコ。サブロウタも負けていない。というか、このぐらいの事にひるむようではリョーコにちょっかいなど出せるはずもない。

 

 

 

「へぇ、じゃあこうしましょうか?撃墜数の多かった方が少なかった方に何か一つ命令できる!ってのは?」

「おもしれえ!!このリョーコ様に勝負を挑むたぁいい度胸だ。ヒカル、イズミ、おめーら審判な!!」

「えぇ〜?あたしも命令してみたいなぁ!!リョーコちゃんがサブちゃんにお姫様抱っこされる!とか?」

「おおお、そりゃ素晴らしい。ぜひヒカルさんも参加してください!!」

 

 

 

サブロウタは我が意を得たり、といわんばかりだ。リョーコは思わず真っ赤になって反論する。

 

 

 

「ば、ばばばばっかやろう!!!こりゃあたしとサブの勝負だ!!余計な手出しすんな!!」

「ちぇ、残念。」

「・・・・残念。とても素晴らしい罰ゲームを考え付いたのに・・・。」

 

 

 

今まで沈黙していたイズミがにやり、と笑いながら切り出した。大体ろくなことじゃないのは解りきった事だが。

 

 

 

「え、何々?イズミちゃん。」

「・・・聞かない方が、長生きできる。」

「え、聞くと長生きできないの?」

「・・・・・リョーコに殺されるから...。」

「てめえ・・・・どんなこと思いついたんだよ.....?」

 

 

 

延々と繰り広げられるナデシコトークに苦笑しているコウの目の前に、新たにコミュニケが開く。ルリだった。

 

 

 

「皆さん、おしゃべりはそこまでに。出撃の準備を。・・・艦長、初出動ですが、何か異常や変調はないですか?」

 

 

 

淡々と話すルリ。彼女もまた実戦慣れしている、と言った感じだ。

 

 

 

「大丈夫。問題ないよ。」

「艦長クン、緊張してない!?」

 

 

 

ヒカルが尋ねて来る。むしろ緊張感を持続することの方が大変だ、と言う台詞をコウはぐっと抑えた。

 

 

 

「はい。幸い敵戦艦は単体。大した脅威ではないですし、腕慣らしには丁度いいでしょう。」

「へ、口だけならなんとでも言えるよな!やっぱ見せてもらわなきゃなぁ!」

 

 

 

どうも最初の挑発が効きすぎたのか、やたらと挑戦的なリョーコ。しかし、コウにはいくらふっかけてものれんに腕押しだった。挑発に乗るような人間ではないのだ。

 

 

 

「・・・そうですね。なんならリョーコさんは見てるだけでも構いませんよ?」

「上等だ!!おら、行くぞ!!」

「へーいへい。艦長、まあ初出動なんだし、気楽に行きましょうや。俺と大尉でだいたい片つきますし。」

「ありがとう。サブロウタさん。」

「私達も負けないよー!」

「・・・・びた一文。」

 

 

 

もはやすっかりイズミのギャグを流すことに慣れたコウ。ナデシコの一員になりつつある。順次コミュニケが閉じていく中、最後にブリッジのルリのコミュニケが残る。

 

 

 

「万が一の場合はリョーコさんたちに任せても大丈夫なので、すぐに帰還してください。」

「悪いね、心配させて。」

「いえ、動けないエステは敵以上に障害になりますから。」

「ははは、きっついなぁ。ルリちゃんは。」

「・・・・あ、いえ。」

「大丈夫さ。まあ、足手まといにはならないようにしよう。」

「はい。・・・・・・・・・・気をつけてくださいね。」

 

 

 

最後の言葉は、少しだけ小声だった。

 

 

 

 

ブリッジでそのルリの様子を、ハーリーはややいぶかしげに見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「しゃあ!!15体目!!」

 

 

 

リョーコ機がまるで無人の野を行くようにジョロやバッタを次々に撃墜していく。

 

 

 

「おーっと、こっちも負けてませんよ?よっしゃぁ!!」

 

 

 

サブロウタも的確な動きで、確実に撃墜数を伸ばしていた。

しかし、地味にもう一人、撃墜数を伸ばしている機体があった。金色のエステバリス―――コウであった。

 

手にしているのはごく普通のラピッドライフル。しかし、一発で確実に一機を仕留める。

まるで皆拳銃の中一人だけスコープのついた銃を撃っているかのよう。圧倒的な精度。

 

 

 

「うひゃー、艦長クンやるぅ!!」

「的確に敵の急所を一撃。・・・やるね。」

 

 

 

ヒカルとイズミはナデシコに敵機を近づけないように護衛にまわっているが、リョーコとサブロウタがガンガン敵機を倒していき、あふれた敵はコウが仕留めてしまうために仕事なし状態であった。

 

ブリッジでもその光景は映し出されていた。

 

 

 

「・・・・・・ウリバタケさん、艦長の銃だけなんか改造しましたか?」

「馬鹿言え!ようやく出動できるように調整するだけで手一杯だ。んなことしてる暇なんてあるか!?」

 

 

 

間の抜けたようなハーリーの質問も、わからないではなかった。それだけ驚異的な命中率だったのだ。

 

 

 

「・・・すごいですね・・・。」

 

 

 

ルリでさえ、思わずそうこぼした。

 

 

 

 

 

 

 

 

あっという間にリョーコが敵無人艦を鎮圧した。もともと相手になる戦力ではなかったにしろ、まさに一蹴であった。

 

 

 

「どうだーー!!俺が一番だったろ!」

「いやー、俺のが倒してますね、絶対。」

「なにー、サブ、テメエ何機落とした!?」

「俺は24機ですね。大尉は?」

「・・・・・・・・・24。」

「まじっすか?いやー、やっぱ俺たちって縁がありますね、確実に!」

「うるせえ!!ま、今回は引き分けって事にしといてやらぁ。」

「お二人とも、ざーんねーん☆」

 

 

 

突如割って入るヒカル。

 

 

 

「ああ、まあ次の時には決着つけてやるさ。」

「いやいや、そうじゃなくってぇ・・・撃墜数一番はお二人じゃありませんでしたぁ!」

「はぁ?ばかいえ!おめーら後ろに控えてたじゃねえか!いくらなんでも俺たちより落としたってこたぁねえだろ?」

 

 

 

突撃一辺倒で後方のコウの射撃を見ていないリョーコは驚いて否定する。得意満面の笑顔のヒカル。そこにイズミのコミュニケが開く。

 

 

 

「・・・撃墜数、スバル機24。タカスギ機同じく24。アスター機37。」

「んなっ・・・・・・!!!」

「え、マジ?」

 

 

 

驚きはブリッジでも同様であった。

プロスペクターが電卓を取り出して計算し出す。

 

 

 

「37機撃墜で使用したのがラピッドライフルの弾丸39発ですか・・・いやはや、実にこれ以上ない効率的な数字ですなぁ!」

「る・・・ルリさん、こんな事って可能なんでしょうか...。」

「・・・現実に起きたことを否定は出来ませんね。気持ちは解るけど...。」

 

 

 

まさに神技のようなショットの命中率だった。

 

 

 

「どうですかね?足を引っ張りませんでしたでしょうか、リョーコ大尉。」

「てめえ・・・・・いい性格してやがるな。ちっ、まあ確かに腕だけはみとめてやらぁ。やり方はこそこそと気にくわねえがな。男なら突っ込めってんだよ。」

「ふむ、やはりサブロウタさんがいいと、こういう訳ですな。」

「ててて、てめえ!!!」

「さっすが艦長、いいこと言う♪」

 

 

 

すかさず尻馬に乗るサブロウタ。もちろん他の二人が黙っているはずもない。

 

 

 

「ほほう、やはり口では否定していても....ラブコメのパターンですな。」

「いやよいやよも・・・デルタ地帯。・・・・・・・・いい農地。くくく。」

 

 

 

いつものパターンでまさにリョーコの怒りが爆発しようとしたその時だった。

 

 

 

「ボース粒子増大!!敵援軍です。」

「場所はナデシコを挟んで反対側にボソンアウトしてきます。艦長。」

「慌てる必要はない。引き続きナデシコは防御体制。先ほどとは反対で今度は僕とイズミ機、アマノ機が前に出ます。」

「はーい。」

「ひさびさの・・・お仕事お仕事。」

「スバル機、タカスギ機はすぐに戻りナデシコの護衛に。」

「お、おう。」

「了解。」

 

 

 

敵の増援もさほどの脅威ではない数だった。コウが指示を出したその瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

まるで一陣の風が吹いたように

 

 

白い影が吹き抜けていき、敵機影はなすすべなく大破していく。

 

 

 

 

それは、ただ美しいほどに華麗に、ただ一機で瞬く間に敵を静めてしまう。

 

 

 

 

 

敵軍の中に動くものが一つもなくなってようやく、その白い影は動きを止めた。

そして、ナデシコの方に向き直る。それはまさしくエステバリスだった。

 

 

 

「ああああ、あれです!!僕が見た幽霊!!ほ、ほら、レーダーにも反応してない!!」

「・・・・オモイカネ!なぜあのエステバリスを感知できないの?」

[わかりません。私には存在が認識できません。]

「・・・そんな。」

 

 

 

ルリにも焦りの色が浮かぶ。今目の前の機体に攻撃されたら、どう対処していいのかわからない。オモイカネは、敵はいないと認識している。ロックオンも出来ないのだ。

エステバリスも同様だった。見えているのに、エステバリスでは自動ロックオンも出来ない。

 

 

 

「う、うそだろ?なんでだよ?こら、反応しろっ!!」

「くっ・・・・この・・・。」

 

 

 

リョーコとサブロウタは急いでナデシコ本体と他のエステバリスに合流しながら、しかし白い機体に照準を向けてもレーダーは一向に敵を捉えない。

その中でコウは、自分達の状態と、戦力、ナデシコとの距離など全てを冷静に見極めながら、相手の動向を伺う。

 

白い機体は、ただじっとナデシコを凝視しているようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・“ファントム”には気をつけて。」

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・ファントム・・・・・・・・・・・・・・・。」

 

 

 

緊張の静寂の中、コウの呟きがこだました。

To be continued