DC版 機動戦艦ナデシコ NADESICO THE MISSIONN SS

 

――君の光に――

Chapter 2---演技

 

 

 

「オモイカネの総合評価でました。92点です。」

「いやぁ、すばらしいですな。訓練レベルA3の高難度でこの得点を出すとは・・・。」

 

 

 

(92点か。もう少し高得点を出しておいても良かったかな♪

 ま、でも今回僕は艦長候補生として連合大学から派遣されたことになってんだし、あんまりやりすぎると疑念を抱かせちゃうか。)

 

 

 

「今までで一発合格はうちの艦長ぐらいですよ。」

 

 

 

ハーリーは自分の事の様に誇らしげに言う。

 

 

 

「ハーリー君・・・やめて。」

 

 

 

 照れくさそうにいうルリ。

 

 

 

「そうそう。ナデシコ現艦長のルリさんと初代艦長のミスマル・ユリカさんだけですかな。」

 

 

 

ミスマル・ユリカ。その名前を聞き、コウは少しだけ眉をひそめた。

 

 

 

(ミスマル・ユリカ。今はテンカワ・ユリカ・・・か。)

 

 

 

「そうなんですか。光栄の極みです。」

「ご謙遜を。さすがは連合大学のトップエリートですなぁ。この調子で明日からの模擬戦闘も頑張ってくださいよ。」

 

 

 

 (模擬戦闘ねぇ・・・・。)

 

 

 

 

「それはそうと、ご挨拶がまだでしたな・・・。私、ネルガル重工のプロスペクターと申します。」

 

 

 

改めてプロスペクターの挨拶を受けるコウ。

彼はネルガルからの派遣社員でありながら、ナデシコに傾倒しているという稀有な存在だ。

ある種パイプ的な役割を持った、コウにとっては重要な位置づけになる人物である。

 

 

 

「どうも、始めまして。」

 

 

 

(彼はどこまで今回の目的を認識しているんだろ?後で確認を取っとかないとな。)

 

 

 

「ご承知のようにこのナデシコBは私共ネルガル重工が建造したナデシコ級第2世代型宇宙戦艦でして、このたびの訓練航行を私共もお手伝いすることになりました・・・はい。」

「よろしく、ご指導のほどをお願いいたします。」

「いやいや。私はしがない一社員でして・・・。実際にご教授下さるのはこちらの方々になります。」

 

 

 

そう言ってプロスペクターがブリッジを振り返る。

 

 

 

「とりあえずブリッジの方からご紹介しましょうか。」

 

 

 

最初に紹介されたのはナデシコC艦艦長にして今回コウのオペレーターを務める少女だった。

 

 

 

「ホシノ・ルリ少佐です。頑張ってくださいね。」

「ありがとうございます。」

「アスター君もご存知なんじゃないですか?ルリさんは『史上最年少の天才美少女艦長』、または『電子の妖精』と呼ばれる有名人ですからねぇ。」

「はい。テレビで幾度か拝見しました。漏れ聞くお噂の通り、聡明な方のようですね。」

 

 

 

コウは、取り合えずクルーのことは知らないと言う事で押し通すことにした。

下調べをしてあると分かれば、余計な詮索をされ面倒な事になりかねないからだ。

あくまでコウの立場は一訓練生。たまたまこのナデシコBに配属されただけなのである。

 

 

 

「・・・そんなことないですよ。艦長こそ、凄いですよね。」

「僕?いや、さっきのテストはたまたまですよ。」

「いえ、それもそうなんですが・・・。艦長、さっきの戦闘が模擬戦闘だって随分早くから気付いてましたよね?」

 

 

 

ほんの一瞬、コウの顔色が変わる。誰にも気付かれはしなかったが。

 

 

 

「・・・何故、そうお思いになるんですか?」

「だって艦長、わざわざクルー1人1人の対応まで観察してましたよね?指揮に集中してたら簡単に満点だったんじゃないですか?」

「え?そうなんですか?」

 

 

 

驚いてコウを見るハーリー。

 

 

 

「あはは・・・買いかぶりですよ。僕は一介の艦長候補生です。そんな余裕は無いですよ。」

 

 

 

そう言って微笑むコウ。しかし、内心は笑っていなかった。

 

 

 

「・・・そうですか。」

「信じてない?」

「はい。」

「うーん、まだまだ信頼関係を構築するには程遠いか。精進あるのみですね。」

 

 

 

信頼の得かたは人によって違う。しかし、疑いの目で見られては信頼は生まれない。

コウはルリに対して警戒を強めた。

 

 

しかし淡白な台詞と表情の割に、素直な言葉を紡ぐルリに、悪い印象は持っていなかった。

 

 

 

「はーいはい。まあホントか嘘かはそのうち分かるでしょ。次は俺ね。

 タカスギ・サブロウタ大尉。ヨ・ロ・シ・ク☆」

「はい、よろしくお願いします。」

 

 

 

(しかし思ったより軍人らしくない人間が多いなぁ、このフネは。しかもこの触角《前髪の赤い所の事らしい》君は確か元木蓮・・・・・・マジですか?)

 

 

 

「連合宇宙軍少尉、マキビ・ハリです。・・・そういえば艦長、僕の名前ご存知でしたよね?」

 

 

 

先程のことをハーリーはまだ疑問に思っていたのだ。しかしコウは当然アフターケアは考えていた。

 

 

 

「ああ、事前に渡された資料の中に上官の方々の名前が記載されていたもので。

ハーリー君と呼ばれてましたので、恐らくマキビ・ハリ少尉であるかと思いまして。」

「成る程、そうだったんですか。」

「違ってたら恥をかくところでしたね。」

「あははは。」

「ははは。(よかった、あほうで)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一通り自己紹介が終わると、ルリがコウに質問してきた。

 

 

 

「早速ですがひとつ質問します・・・。艦長にとって最も必要な条件は何だと思いますか?」

 

 

 

艦長適正の判断は各クルーの心証も含まれる。従っておのおのがコウという人物を判断するのだ。

こういう質問もその一つだろう。

 

 

 

「そうですね・・・状況判断でしょうか。極めて的確な。ただし、高度な戦闘になればなるほど迅さが求められるかと思います。」

「それじゃ 俺も質問その2!絶体絶命のピンチを切り抜ける場合、頼りになるものは?」

 

 

 

続いてサブロウタが質問をする。どうも彼の場合は楽しんでいる風ではあったが―――。

 

 

 

「自分です。自分を信じられなければ、決断は出来ません。決断なくして打開策は実行できません。」

 

 

 

これはコウの本音であった。自分の信念を貫く。それがコウの誇りであったから。

 

 

 

「えーと、うちの艦長・・・じゃなくてホシノ少佐の愛称はさっきプロスペクターさんが言っていた

『史上最年少の天才美少女艦長』と『電子の妖精』、どっちが良いと思います?」

「・・・えー・・・・・・・・・え?」

 

 

 

ハーリーのあまりの唐突な質問にさすがのコウも唖然とした。

 

 

 

「お前、何言ってんだよ!すいません、こいつホシノ少佐にベッタリなもんで・・・。」

「ちっ・・・違いますよぉ〜!ちゃんとした心理分析的質問です。」

 

 

 

(はっきり言おう、そんな心理分析からは何も導き出されません!)

 

 

 

言っていないが。

 

 

 

「はいはい・・・スンません艦長。」

「構いませんよ。そうですね、『電子の妖精』がぴったりじゃないですか?(史上最年少の天才美少女艦長って長いから!語呂悪いし!)」

 

 

 

 

 

 

 

 

「はいはい、皆さん質問はそのくらいで・・・。」

 

 

 

プロスペクターの取り仕切りでようやく質問攻めから開放されたコウ。

と、そこにコミュニティが開く。映し出されたのは、パイロットスーツとおぼしき服を着た女性だった。

 

 

 

(確か、スバル・リョーコだっけ・・・。)

 

 

 

「おい!模擬戦闘もう終わりかぁ〜?何だよオレ達の出番はなしかよ!」

 

 

 

さらにウィンドウが開く。こちらはアマノ・ヒカル。同じくエステで待機中のまま出番なしだったために、暇を持て余していたようだ。

 

 

 

「せっかく準備してたのにね〜。」

 

 

 

もう一つのウィンドウにはマキ・イズミが映し出されていた。

 

 

 

「銭湯終わって今日は風呂なし。アハハ・・・。」

 

 

 

黙って聞き流す各クルー。免疫の無いコウは苦笑していた。

 

 

 

「おお、ちょうどよかった。彼女達はエステバリス隊のパイロットの皆さんですが、見学がてら格納庫へいらしてみてはいかがです?」

「そうですね。ぜひ。」

「それではご案内しましょう。あ、他の方はしばらく待機していてくださいね。では艦長。」

「はい。」

 

 

 

プロスペクターの提案に乗り、ナデシコ艦内を顔見せがてら見学して回ることに決定し、コウはブリッジを出て行こうとする。   

 

 

 

(ふぅ〜、真面目な話し方は疲れる・・・。しかもあんま意味なさそ気だしね。

軍艦だって言うんで真面目なほうが心証良いかと思ってたんだけどな・・・・。統合軍とはだいぶ印象が違うなぁ。それともここが特別なのか・・・。)

 

 

 

「あ、艦長。」

 

 

 

それをルリが引き止めた。

 

 

 

「はいはい、何ですかホシノ少佐。(びっくりしたなぁ、もう。油断してたよ。)」

 

 

 

あわてて笑顔を作って振り返るコウ。

 

 

 

「実はオモイカネに登録するための艦長のプロフィールなんですが・・・。」

「それが何か?(うわぁ〜、何かまずったかな?ちゃんと当たり障りの無い履歴を用意してもらったはずなんだけど・・・)」

 

 

 

内心では少し懸念したが、それは表には出さなかった。

 

 

 

「大学前の経歴が記載されてないんです。大学側に問い合わせたのですが、回答が帰ってこないので・・・。」

 

 

 

(あ、そうか。フクベさんに作ってもらったのは大学出身の候補生としての証明書だけなんだ。

 しっかしネルガルもその位作っとけっての・・・。)

 

 

 

「そうでしたか。それはご迷惑をおかけしました。あとで僕の端末から直接入力しておきましょう。」

「よろしくお願いします。それと・・・。」

「はい。」

「私のことはルリでいいです。その方が慣れてますし。」

 

 

 

予想外のルリの言葉に驚くコウ。

 

 

思わず――――それが彼女たちに見せる初めての心からの笑顔だった。

コウは、にっこりと笑うとルリのそばまで歩み寄った。

 

 

 

「かしこまりました、ルリちゃん。」

 

 

 

そう言って優しくルリの頭をなでてやる。

 

 

 

「あ・・・。」

「!!!」

 

 

 

コウは再び振り返ると、今度こそ部屋を後にした。

 

 

 

「・・・・変な人。」

 

 

 

ブリッジのあちらこちらから「やるぅ〜!」「あのやろぉ〜!」などと無責任な傍観者たちのささやきがはやし立てる。

しかし当のルリはまるでそのことには気付いていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同じように、まるであやすように、大きな手で頭をなでられたのはいつの事だっただろうか。

ルリはほんの少しだけ暖かい気持ちを味わっていた。

 

 

 

その隣で、顔を高潮させたハーリーがいた・・・。

To be continued