光への誓い
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・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・眩しい。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・光が・・・・眩しい。
「さ、目ぇ開けてみな?コウ・アスター。」
視界が、ぼやける。
黒いものと、白いもの。
少しずつ色が増えていく。
世界が、形作られていく。
そこは、見慣れない病院の一室だった。
いつ以来の事だっただろう?
『見る』という行為から遠ざかってから。
「おら、いつまで呆けてるんだよ?」
不意に、白衣を着た女性が目の前に現れる。いや、会話はしていたのだからそばにいたことは知っていたが、イマイチ『見る』事と『話す』事との連結が上手くない。
年の頃は26,7と言ったところだろうか?かなりの美人と呼ばれる部類に入る顔立ちだろう。目つきはきついが。
「先生、アンタそんな顔してたんだね。」
「ふん、アタシの顔なんざどうだっていいんだよ!」
「そりゃあそうだ。」
「あんだとコラ!」
「自分で言ったんだろ?」
「謙遜入ってんだよ!気づけタコ!」
口煩い女であることは分かっていたが、ビジュアルとのギャップが激しい。この目のリハビリには少しばかりハードだ。
「そんなことより、手術は成功なんだろうな?」
「だから見えてるんだろ?」
「なら・・・。」
言いかけて、やめた。当たり前の質問には当たり前の答えが返って来るだけだ。それが今は僕を腹立たせるだけだと言うことも分かっている。
「いや、いい。」
「ふん、大体何言おうとしたかわかるがね。ま、想像通りだと言っとくよ。」
そっけない返事だ。この女は人の神経を逆なですることに命を掛けているのに違いない。
「・・・今なんか失礼なこと考えてただろ?」
「何を根拠に。」
「なめんな!そのツラ見りゃわかるっての!」
どうやら露骨に不満そうな顔をしていたらしい。光を失ってから、自分を飾ることも隠すこともなくなっていた。その必要も無かった。
人から見てどう見えるのかなどいくら考えたところで、どのみち確認が出来なかったのだから仕方ない。
「さて、どうだい?久しぶりの景色は?」
「複雑だね。」
「ま、そりゃそうだろうな。事情が事情だしな。まあアタシには関係ないけどねえ。」
こいつが男なら間違いなく殴ってる。この性格破綻の社会不適合者はしかし医師としての腕だけは確かだ。
「・・・とりあえず礼は言っとくべきかな。」
「礼はカネだけで十分だね。こちとら仕事だ。」
「なら、もう一つの仕事もきっちりやってもらうぜ?」
「そりゃまずアンタが自分の仕事をきっちりやったらって話なんだろ?さすがのアタシだって目の前にいない患者は治す事は出来やしないからね。」
「わかってるさ。」
「それに、治す気のない人間も治さない。そんな事しても無意味だからね。」
そうだ。それこそが最大の問題なのだ。力づくで治療させても意味がないのだから。
「そうだな。アンタの言うことは最もだ。しかしアンタは口は出さずに与えられた仕事だけこなしてくれればいい。それだけの金は払ったはずだ。」
「ま、そうだね。雇われの身はおとなしくしてますか。」
そう言って女は病室を出て行く。僕はようやく慣れて来た光の差し込む窓に歩み寄り、ブラインドを上げた。
先程より更に強い光が僕を照らす。思わず目を瞑った。
しばらくして、少しずつ目を開ける。最初のときよりはいくらかマシだった。
眼下に広がっているのは、駐車場と、森林。都会から離れたこの病院は、リハビリには最適の環境が揃っている。
「急がないとな。時間は待ってはくれない。決断した以上、必ずやる。やり遂げる。これは決定事項だ。」
僕は、再び与えられた光に誓う。
ナデシコBに乗る、約3ヶ月前の夏の日だった。
管理人の感想
ふむ、主人公は元盲目ですか・・・。
この設定自体に意味がありそうな気がしますが・・・。
まあ気のせいということにしておきましょう。
看護婦もいい性格してて、キャラとしてはすごくいいと思います。
houtouさんはこういうキャラ考えたり書いたりするのが上手いなぁと思いましたね。
一話の運転手しかり、今回の看護婦しかり・・・。
サブのサブにまで個性持たせるのはいいことだと思います。
見習わなくては・・・。