DC版 機動戦艦ナデシコ NADESICO THE MISSIONN SS

 

――君の光に――

The beginning latter part---送酒

 

 

 

「ふむ。ま・・・こんなもんだろう。」

 

 

 

ある訓練施設の一室。年老いた男性が、一通の書類をしたため,それを封筒に入れ対面に座る青年に手渡す。

 

 

 

「お手数をかけました、フクベ提督。」

 

 

 

封筒を受け取った青年は、礼を言い、軽く頭を下げる。流れるようなショートストレートの黒髪に痩せ型に見えるわりに恰幅のいい体躯、軍服を着こなし、礼節をわきまえたその青年は、まさしく理想的な軍人のそれだった。

 

 

 

「なに、年寄りの手慰み程度の仕事じゃて。何も手間な事などない。」

「そう言って貰えると助かります。」

「それより提督は勘弁せいよ。今はもう引退した身。提督ではない。」

 

 

 

老人――フクベ・ジンは、笑って言った。

 

 

 

「はっは、了解です。」

 

 

 

青年も合わせる様に微笑う。

すると提督はどこからか日本酒のビンを取り出し、グラスに注いだ。どうやら手慰みの本命はこちらのようだ。

 

 

 

「・・・どうだね、君も一杯。銘酒、“酒天童子”だ。ワシの友人が田舎から送ってくれてな。」

 

 

 

酒瓶の口元を青年に向け、片手には青年用のグラスを持って、酒を勧める。

 

 

 

「へえ!これはまた珍品中の珍品ですね!・・・と!」

 

 

 

≪君が艦長になるんだからね。皆の見本にならないと。特に酒はひかえなよ?≫

 

 

 

(ぐ・・・解った解った。解りましたよ、エルト。)

 

 

 

青年は心の中で呟くと、未練を振り払うように頭を振る。

 

 

 

「うむむ・・・すんませんけど・・・。」

「ふむ、そうか?・・・しかし、無類の酒好きのお前が、珍しいことだな。」

 

 

 

そう言うと、少し残念そうに自分のコップにだけ酒をついで、それを一口飲んだ。

 

 

 

「こりゃせっかくの明日の門出が雨になるぞ・・・。」

 

 

 

グラスを置いて、ちらっと青年のほうを見てそういう。どうやら相伴相手が欲しかった様だ。

申し訳なさそうに、名残惜しそうに、青年が切り出す。

 

 

 

「生憎と禁酒中でして・・・ぐぐぐ・・・。」

「ほう・・・禁酒とは・・・20歳の身の上としては、いささか不穏当な発言だな。」

「ちぇっ、勘弁してくださいよぉ!」

「ふっふっふ。ふむ、コレか?」

 

 

 

そう言って小指を立てる。もう酔いが回り始めているようだ。どうやら青年が来る前から一人でちびちび飲んでいたらしい。青年は苦笑しながら答えた。

 

 

 

「・・・まあ、そんなところですか。」

「そういう事では、無理には進められんの。」

「そういう事じゃなかったら、無理に勧める気だったんですか?」

「無論じゃ。若いモンに説教しながら飲むのが、年寄りの一番の楽しみじゃからのぉ。ふっふっふ。」

 

 

 

そう言って高らかに笑いながら、フクベはグラスの酒を飲み干し、また注ぎ直そうとする。青年はその酒瓶を取り、フクベのグラスに酒を注いだ。

 

 

 

「お、すまんな。」

「いえいえ。こちらこそせっかくのお誘いだったのに申し訳ないです。酒は無しですが、お付き合い致しましょう♪」

「ふむ、そうか?」

「はい。少し長旅になりそうっすからね。次となると何時になるか分かりませんので。」

 

 

 

 

 

 

 

「ふむ・・・ナデシコ、か。」

「フクベさん知ってるんですか?」

「・・・少し、の。」

 

 

 

そう言うと、フクベは窓に視線をやる。その幾重にも刻まれた深いしわひとつひとつの苦労は、到底読み取る事はできない。ただ、僅かに開いたまぶたの奥のその瞳は、過去を除いているようだった。

 

 

 

「まだワシの知っとる者も乗っとるようだな。」

「教え子、ですか?」

「いやぁ・・・ワシはただの爺だ。教えることなぞ何もありゃあせん。教えられる事はあってもの。」

「ご謙遜を・・・。」

「いや。本当にワシに何か教えることなぞ・・・教える資格なぞありゃあせんよ。」

 

 

 

フクベはほんの僅か、注意深く聞かなければ分からない程に語気を強めた。青年は黙って続く言葉を待つ。

 

 

 

「だから、ワシは祈るばかりなのだ。願わくば彼らの航行に幸多からんことを、と。それさえも届かぬが現実。

・・・しかしそれでも祈らずにはおれん。」

「・・・・・・。」

「・・・君は、良い人だ。君には君の理由なり目的なりがあってこのようなイリーガルな方法での乗船の形を取るのだろうが、

出来る事ならば助けとなってやって欲しい。」

 

 

 

そう言って、フクベは青年のほうに向き直り、頭を下げた。酒は飲んでいるはずなのに、むしろ良いは醒めていっているようだった。

 

 

青年は真っ直ぐにフクベを見据え、言葉を紡いだ。

 

 

 

「僕は僕の仕事をするだけですよ。でも、結果的にそうなれる事はあるかもしれないですね。」

「ふむ・・・それで十分。すまんの、君にとっては艦長として初陣となると言うに。かえってプレッシャーを掛けてしまったようじゃ。

本来なら送りだす言葉を掛けてやらねばならんところを。」

 

 

 

青年は微笑みながら首を左右に振る。

 

 

 

「十分過ぎるほど貰いましたよ。フクベさんの気持ちが聞けたのが何よりの励みになります。」

「・・・・・・。」

「帰ってきたときはまた一杯やりましょう。」

「ふむ・・・。そう言ってくれるか。ならば、無事帰ってくるのだぞ。」

「はい。この2ヶ月間でフクベさんに教えて頂いた事を糧に、精進致して参ります!」

 

 

 

青年はそう言うと、立ち上がって一礼をする。そして向きを変え、扉へと歩いていく。

 

 

 

「うむ。この“酒天童子”と一緒に待っておるのでの。」

 

 

 

そう言って酒瓶を掲げる。青年は泣きそうなぐらい顔をゆがめながら、足を止めて。

 

 

 

「うぐぐ・・・今すぐ飲みたい!」

 

 

 

フクベの言うとおり、相当の酒好きであるようだ。

 

 

 

「なんせ戻ってきたら酒より前に付き合ってもらわないといけないもんがあるんでね。」

「?」

 

 

 

フクベの方を首だけ回して見ながら、言った。微笑みながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そう、帰ってきたら・・・一緒にラーメン食いに行きましょう。」

 

「!」

 

 

 

驚いた表情で目を見開き、青年を凝視するフクベ。青年は再び足を進めた。今度は立ち止まる事無く、扉を開ける。そして、フクベに敬礼の姿勢を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「コウ・アスター、言って参ります!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

≪失くしてしまった時間はもう取り戻せないかもしれないけど、

忘れているだけだったら、きっと思い出せるから。≫

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(さあ行こう、エルト。)

 

 

 

コウは、力強く歩を進めた。

To be continued

 



管理人感想

新しいキャラが登場しましたね。

ナデシコ NADESICO THE MISSIONNをやってないのでオリキャラなのかどうかわかりませんが・・・。

てっきり例の人が出てくるのだと思ってたので、少し予想が外れた感じですが、

どうもこのキャラには秘密がある模様…。

先入観を持たずに、続きを楽しみに待ちたいと思います。

最後の無くしてしまった時間は〜のセリフはいいですね。

どこかで使わせてもらいたいと思います(マテ