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老兵の呟き
誰もいなくなった、秋風の吹き込む部屋で。
銘酒“酒天童子”の注がれたグラスを僅かに傾ける。
渇いた喉に潤いを与えてくれ、腹の底から活力が湧いて来る。
百薬の長、とはよく言ったものだ。
ネルガルの“軍需産業部門の中の最前線における人材育成顧問”という肩書きはあるものの、木蓮との締結以来事実上の名誉職となっている。
一民間企業がおおっぴらに軍人育成に力を入れるわけにも行くまい。当然の結果である。それも自分にはふさわしい。
そんな時、一人の青年が送り込まれてきた。
訳ありであることは間違いない。
彼の才覚、軍事経験、視野、軍略、ありとあらゆる素養はもはや教育するところなど無かった。
そして彼は数十時間の後に記憶にとどめて消えることの無いあのナデシコに乗る。
それも連合大学在学と言う偽りの肩書きで。
いつの世にも軍上層部とは偽善と欺瞞で満ちている。
それが民間であろうと公営であろうとかわらない。
ただし、この青年に不誠実な部分も不義理も見当たらなかった。
心の内は分からなくとも、強い信念と誠実な姿勢は見て取れた。
軍人の模範のようで、実はそうではない。
軍人には信義・信念は求められず、ただ忠誠のみが求められるものだ。
よって、この青年のそれは軍人の模範的思想ではない。
少なくとも本人に何らかの目的があるのだろう。
その事も気に入った。
しかし何より酒が強い。
話の分かる相手は久しぶりだった。
この2ヶ月は楽しかった。
少々名残惜しさが酔いを僅かに妨げる。
だが老兵に出来ることなど無い。
だから今日まで何も聞かず、ただ一隻の艦を率いる長としての心構えを説いた。
後は彼次第だろう。
何をか言わん。
ただ祈るばかりだ。
若者たちの帰還を。
「美味い酒だ・・・。しかし、少し一人酒には上等すぎる。
一人酒には安酒だ。安くて量が飲める安酒に限る。夜を越すには、量がいる。
・・・・・・・・・今日の夜は、長すぎる。」
歳を取るごとに、いつしか夜を長く感じるようになっていた。
再び一人酒に戻った今は、尚の事だ。
しかしそれでも夜は明ける。
祈るばかりのこの老兵にも、同じように朝は来るのだ。
ならば待とう。信じて待とう。
酒に蓋をし、銘柄を変える。
「美味い酒は皆で飲むに限る。一人酒には、安酒だ。」
管理人の感想
前回のショートストーリーとは違い、ずいぶんとしんみりした感じですね。
本編の主人公のコウがお世話になった人、なのでしょうか・・・。
もしかしたフクベなのかな・・・?
この人の心情がとてもよくわかる、良い文だと思います。
ただ、細かいところを言うと、まだ少しあるのですが、
ここで言うようなことでもないだろう、ということで発言は控えさせてもらいます。
後、お酒の名前まで詳しく書いてるところは、少し関心しました。