――君の光に――
The
beginning first part---舞台
西暦2202年、秋
―――
月面基地、連合宇宙軍第5番ドック。
宇宙連合軍第4艦隊所属、訓練戦艦“ナデシコB”はそこにいた。
“火星の後継者”決起時に出撃したネルガル重工製の民間戦艦。ナデシコ級戦艦では第2世代に当たる。
基本的に第2世代以降のナデシコ級戦艦ではワンマンオペレーションプランが採用されており、早い話がメインコンピュータさえ掌握していれば一人でも動かせるのである。最も、それを実行できる人間など、ほんの一握りしかいないが。
“ナデシコC”の実験データ収集艦としてプロトタイプ的な役割を果たしたナデシコBだが、“ナデシコC”が完成した今となっては、ネルガル重工のプロパガンダとして訓練戦艦となっている。有効利用、と言えば言えるのかもしれないが、そのほかにも連合宇宙軍との関係など様々な要因が複雑に絡み合っていることが背景にある。
ともあれ、当の乗員はそんな思惑などは知ったところではないのも事実。今日も今日とてどこ吹く風で出港準備の真っ最中。・・・だが、ガソリン補給中の運転手よろしく、実際やることも無い訳で。
物語は、そんなナデシコBから始まる。
比較的若年層で形成されている現代艦でもとりわけ異彩を放つ少女が中央の艦長席に座り、これまたペーパーレスが叫ばれ久しい今時異彩を放つ紙の本を読んでいる。もう今では紙の本のほうが珍しい。
「現在、補給率77・・・80。80%オーバー。」
その脇、左手に座る少年がそう告げた。中央に陣取る少女よりも更に若い、中性的・と言うより女の子のような外観に似合わずオールバックに固めた、いかにも真面目を絵に書いたような彼が副長補佐に当たる。
「補給完了次第、発艦します。」
「ぺらっ」
それを受け、中央の少女、ナデシコB艦艦長が定型的な指示を出す。実際、この指示は流れ作業的なもので必要ないのだが、これも仕事・である。
そして右手には両足をコンソールの上に投げ出している、金髪の挑発をヘアバンドで止め、胸のホックをはずすラフな格好の青年。彼がナデシコBの副長。
この3人が、ナデシコBの中枢メンバー、この艦の頭脳である。
「了解。・・・いよいよ、明日からですね艦長。訓練航行。」
少年が艦長、中央の少女に向かって話しかける。
「ええ。私も暫くは艦長じゃなくなりますね。」
「どんな人が、来るんでしょうかね?サブロウタさん。」
今度はサブロウタと呼ばれた左の金髪の青年に。この話に構ってほしいのか、しきりに話題を二人に振った。
「さぁな、どんな奴だろうと、俺たちには関係ないさ。
そのままウチの艦長になるってんなら話は別だけどな。」
「ぺらっ」
金髪の青年・サブロウタは腕を頭の後ろに組み、少年のほうを向かないまま答えた。
「それは、そうですけど。・・・気になるじゃないですか。訓練航行とはいえ、一応僕らを指揮するんですから。
しかも地球連合大学切ってのトップエリートなんですよ?やっぱりこれは僕らに対する挑発ですよね?」
「ま、当て付けって感は否めないけどな。
でもな、それを採点すんのも俺達次第だって訳だ。
まぁ、私情を挟まないように注意することですな、マキビ・ハリ少尉。」
金髪の青年は少年、“マキビ・ハリ”と呼ばれた彼をからかうようにたしなめる。
「そんなこと、サブロウタさんに言われなくてもわかってます!」
「ぺらっ」
ふて腐れるように答える少年。
「なら、いいけどよ。お前は任務にも常々私情を挟んでるからなぁ。」
ますますからかうような口調で、サブロウタと呼ばれた青年が口元を緩めながら言った。
「!い、い、いつ、ぼ、僕が艦長の事で、誰が、そんな・・・そんな事ありませんよ、艦長!」
「なぁ〜に慌ててるんだよ、ハぁーリ〜♪俺は艦長の事なんて、一言も言ってないけど?」
真っ赤に顔を染めた少年・通称ハーリーは、思わず言葉に詰まる。実際は艦長である少女の事を指して言ったに決まっているのだが。
「言ったじゃないですかぁ!」「言ってません〜♪」「この前だってその前だってそのまた前だって・・・。」「そぉんな昔の事まで責任持てないなぁ。じゃあお前、別れた女が数年後に子供抱えてきて、『この子あなたの子よ!』とか言ったらどぉーすんだ?責任持てるか?」「そそそ、そんな重大なことと、今の事とどんな関係があるんですかっ!・・・まさか、サブロウタさん・・・!」「ば、お前今すごい勘違いしてんぞ!」「ふーん、じゃあ別にこのことリョーコさんに言っても構わないって訳ですね?」「お、おま・・・やること汚くなってきたな・・・!」「そうだとしたら誰かさんのおかげじゃないですか?」「こんなこと言われてますよぉ?プロスさーん。」「サブロウタさんのことですっ!!」「・・・」「・・・!!」「・・・」
いつもと変わらぬやりとりに、クルー達は今日も今日とて呆れるやら笑えるやらであった。
「ぺらっ」
少女もいつもの事と、気にも留めずにページをめくった。
真っ暗な世界に、宝石を散りばめた様な大宇宙。補給の完了、エンジンの稼動に伴い、ドックのハッチが開いてその世界が広がってくる。
少女―――ホシノ・ルリはそれを眺めながら、ほんの僅かの時間目を瞑り、邂逅する。
そう、懐かしさと、愛おしさと、そして―――
締め付けられるような、切なさを。
「パタン」
「ナデシコB艦、発進します。」
ルリは、静かに本を閉じた。
To
be continued
管理人の感想
ん〜、今回はプロローグ的な感じですね・・・。
会話とかも、キャラの特徴を掴んでるので、いいのではないかと思いますが、
現時点で判断を下すには時期尚早でしょうね。
次回を楽しみに待ちたいと思います